第7話 (天蓬)

「あなたとヤりたい。今すぐ。」
「却下。」
言いたい事言えって言うから言ったんじゃないですか。
そんなにストレートに返すの、初めてですね。
いつものらりくらりかわすのに。
認めたくないけど、さすがにこたえる。

その後、捲簾は仕事がどうたらこうたら言って
そそくさと会社に戻っていき、
僕ももう研究なんて手につかないから家に帰った。

「俺たちは親子なの!だから言ってるだろ。
そういうのはやらねえって。
もっとあるだろ。親子でもできることがよー。」
親子でもできることって。なんなんですか。
そもそも僕を狂わせたのはあなたなのに。
もうどうしろと。この執着を。
帰り道、ずっとそんなことをぐるぐる考えてた。

自宅の玄関を開けるとリビングは真っ暗。
その暗闇の真ん中で、八戒が膝をかかえて小さくなっていた。
「八戒 ?明かりもつけないで。どうしました?」
明かりをつけても動かない。
「どうしました?八戒 。」
問いかけてもぴくりともしない八戒を、見つめる。

八戒も悟浄も、捲簾が学生時代遊びまくってた時にできた子供だ。
八戒を身ごもった時、捲簾にはすでに別の女との間に
子供(悟浄)が生まれていた事を知った八戒の母親は、
子供の認知だけを望み、金銭的な補償を要求する事もなく
捲簾とは決別して、一人で八戒を生み、育てた。
しかしついこないだ、約10年振りに捲簾に連絡を寄越したと思ったら
「男と逃げるから子供を育てて。」と言うと一方的に住所だけ教えて
音信不通になったそうだ。
その日。仕事を早々に終えてその住所に行くと
八戒が一人、母親の帰りを待っていたという。

「チャイム鳴らしたらさ、『お母さんっ』って
悲鳴みたいな声あげてバタバタ走ってくるのが聞こえたんだよ。
で、ドア開けて、自分のお袋じゃなくて俺が立ってて、
見上げてくるその目がさ。もう『ああ、終わったんだ』って目してた。
部屋ん中見たらさ、小っさいちゃぶ台の上にメシがあって、ラップしてあんの。
あいつはさ、真っ暗な部屋の中で、『きっと帰ってくるかもしれない』って
ずっと母親の事待ってたんだろうな。そん時の気持ち、想像できるか?」
八戒を引き取った日、捲簾は難しい顔をして、そんな事を言っていた。

その時は、ああいいかげんな親をもつ子供は可哀想だな
くらいにしか思わなかったけど。
今初めて、この子の味わった絶望感について考えてる自分がいる。
この小さな頭の中に、どんな気持ちが
渦巻いてるかなんて想像もつかないけど。

そして今自分の中にわき上がるこの気持ちは何だろう。
この子をどうにかしてやりたいと思うこの感情は。
一体どっから湧いて来るのか。
出会ったばかりの、口もろくにきいた事も無い、血のつながりも無い子供に。
哀れんでるとかそういうんじゃなくて。
こんな子供に対して恋愛感情が?まさか欲情してる?
いやいやそれはない。

自分で自分の気持ちが説明できない。
でも体は勝手に、八戒の隣に座って
この子の髪を撫でていて。

そうしたら、突然僕の胸に顔を埋めて泣き出すから。

ぎゅっと抱きしめた。八戒が泣き止むまで。
捲簾との事なんですっかり忘れて。

なぜだろう。
どうにかしてやりたいという気持ちとは逆に、
腕の中で泣かれて場違いに和んでる自分もいる。

なんででしょう?

 

しかしひどい親だな・・・

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