第3話 (天蓬)

「天蓬が俺のお袋なら良かったのに。」

なんですかそれ。
僕だって何度あの人の「息子」意外になれるんだったら
どんなにいいと思ったか。

時計のネジを回すようにして、時を遡れたらいいのに。
この世界のどこかにドラえもんがいるというなら、
どんな手を使ってでも探す。
そしてどんな汚い手を使ってでも、拳銃で脅してでも
望みを叶えたい。10年前に戻ってやり直したい。

10年前。僕は実の父親と二人暮らしだった。
父は薬学部の教授をしており、捲簾はその元教え子。
勉強は出来るが遊び人で、当時つき合っていた女性との間に出来た子供を
自分ひとりで育てる。と言い出して突然大学院を辞めて
製薬会社の営業に就職したのだが、
その後も父とは交流があり、よく家に来ては一緒に食事した。
その当時の僕は本が読めればそれだけで良くて、他人になんて興味なかった。
捲簾もそう。家に来てもろくに会話もしなかったし、彼がどんな人間かも興味なかった。

ただ、それだけの関係だったのに。何とも思ってなかったのに。
たった一度のキスで、僕は狂った。
食後。台所で捲簾と二人、食器を片付けてた時だった。
「なあ、天蓬。キスしていい?」
「は?」
捲簾が突拍子もなくそんなことを言ったので驚いて
顔を向けたらすでに捲簾の顔が近くにあり。そのまま、唇を塞がれた。
「んっ・・・」
不思議と、嫌悪感もなくすんなり受け入れる。
「ん・・・んっ・・・」
何度も何度も上唇と下唇を交互に吸われる。なんて、心地良い。
体の真ん中から這い上がる熱で崩れそうになる体を支えようと、
捲簾のシャツにしがみついた。

唇が離れるその時が名残惜しくて惜しくてたまらない。
唇が離れたそばから、もう一度、もう一度、
とせがんでいた。そのくらいの、心地良さ。
「んんっ・・・は・・・!」
突然、唇が離れたので捲簾の目を覗き見ようとしたら。
いきなりぎゅっと腰をつかまれ引き寄せられると
今度はしゃぶりつくような激しいキス。
舌が縦横無尽に這い回って口腔を犯しつくすような。
「ん・・・ふ・・・ぁ」
「・・・わり!」
捲簾はそう言って名残惜しそうに唇を離すと
ばつが悪そうな顔をして、また片付けを再開した。
前触れも無く勝手にキスして、終わったら終わったで何の弁解も説明もない。
最高に気持ち良くて分からない事だらけのキスを。あの時ただ一度だけ。

その日を境に、捲簾の事だけ、考えるようになった。
もう一度したくて。どうしてキスしたのか知りたくて。
あんなキスはしたことなかったし、それ以来あれ以上のキスはしたことがない。
あれ以上の快感も、味わったことがない。

だから、その後父親が突然死んで、親戚もろくにいなかった僕に
「俺のところに来ないか」と声をかけてくれた時、
僕は父が死んだ直後だったというのに浮つく気持ちを抑えられなかった。
でも、熱にうかされたまま、深く考えもせずに
流されるままに彼の家に養子に入って待っていたものは。
何度迫れど、どう迫れど、「お前は俺の息子だから。」という理由で
なにもかもがかわされる日々。
すぐに手が届く距離にいるのにキスもセックスも許されない間柄。

彼への執着だけが増大していく毎日。
もう、彼の事が好きなのかも嫌いなのかも分からなくなるくらいの、執着。
勝手に最高のキスして勝手に養子にして勝手に人の誘いを拒否して。
一体あの男は何を考えてるのでしょう。
あの時。10年前のあの日。養子になんてならなければ。

とっくの昔に自分からこの男を犯してるのに。

 

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