第2話 (悟浄)

日曜日。
俺の狭い部屋に2段ベッドが設置された。
きっとオヤジがネットかなにかで買って
今日配送されるようにしたんだろうけど。
そういうことは一言も聞かされてない。それならそうで一言言っとけよ。

その2段ベッドの下段で、八戒はまた何やら本を読んでる。
こいつ正直苦手かも。ダチの中にもこういうタイプいないし。
話しかけてもノリが悪い。こいつは多分、この家に馴染もうなんて気はない。
それでも話かける俺。偉くねえか?
「何読んでんの。」
「伝記。リンカーン。」
「おもしれえの?」
「別に。もう宿題も終わっちゃったんで。暇だし。」
「ふーん」

会話続かねえな〜なんか話題ねえか。話題。
めんどくせえから色々聞いてみるか。もーいっそ。
「お前さ、ここに来る前は母親と住んでたの?」
「・・・」
答えない。表情も瞬きひとつしただけで、何考えてるか分かんない。
「お前の母親って、どんな人?」
「・・・」
答えない。変な空気だ。
「や、別にお前のことどうこうって訳じゃないけど。
俺、自分の母親に会った事ないからさ。どんなもんかと思って。」

不意に八戒が顔を近づけてくる。翠の、すっげえ奇麗な目。
「他人に」
「へ?」
「他人に期待なんてしない方がいいですよ。
まして会った事も無い人になんか。」
「え?」
「現状から抜け出そうとしたところで、自分の居場所なんてないですよ。
所詮帰るところはここしか無いです。」

家を飛び出だした。
八戒との会話は適当に何か言って強制終了させて。
あいつの、目が怖かった。人の心の中読んだような。
『自分の居場所なんてないですよ』
言えてる。あの家にすら居場所なんかない。
居心地がいいなんて思った事もねえし。

かといって、フラリと立ち寄ったゲーセンが居心地いい訳もなく
生まれつきの真っ赤な髪のせいで、年上の奴らに目をつけられては絡まれる。
しかも絡まれてるのはこっちなのに、店員に見つかって、
相手はどっか逃げて、俺だけしょっぴかれる。これもまあよくあることだ。
どこに行っても似たようなもんなんだ。
でも。こういう時決まって迎えにきてくれるのは。

天蓬。
その時だけ、すげえ、うれしいんだ。

「小学生がひとりでゲームセンターに出入りしちゃあ駄目だろ」
「髪もそんな色に染めて」「親は何してるんだか」
事務所で店員から説教を食らう羽目になるのもよくある事だから、
右から左に聞き流す。そこに。
「失礼します。」
突然天蓬が、事務所に入ってきた。
「この子の兄で天蓬と言います。
今日はご迷惑お掛けしてすみませんでした。
これからはよく言って聞かせますので。」
そう言って、きれいにお辞儀した。

男なのに超絶美人の天蓬が来て、何か一言二言言ってくれれば
大概の店員は男でも女でも鼻の下伸ばして「はいはいもういいですよ〜」となる。
その瞬間が、なんか嬉しい。解放される事がじゃなくて。

「いつもいつも。絡まれるならああいう所に行かなければいいのに。
それか髪を染めるとか。」
ゲーセンから出て、帰りしな、天蓬がそう言った。いつも通り無表情だ。

面倒だから髪の毛黒く染めようかななんて思った事もあったけど。
昔天蓬に髪を結ってもらった時。
「悟浄の髪の色は奇麗ですね。」
って言ってくれたのがすっげえ嬉しくて。
本人は何の気なしに言ったのかもしれないけど嬉しくて。そのままにしてる。
いつもこうして来てくれるのも嬉しい。

相変わらず何考えてるか分からないけど。
天蓬の事は、好きなんだ。だから言ってみた。
「ていうかさ。」
「何です?」
「天蓬が俺のお袋なら良かったのに。」

なるたけさらっと、言ってみた。
どういう反応すっかな。「何言ってるんですか」とか
「何かあったんですか」とか言ってくれるかな。この兄貴は。

天蓬が突然立ち止まるから、顔を覗き込んだ。
「天蓬?」
「そういう事、二度と言わないで。」
眉間には珍しく皺が寄っている。
俺の方は、見ようともしない。

え?何?怒ってんの?ここ、怒るとこなの?
何だよ。何なんだよ。みんなして。

 

人の心配したら冷たくあしらわれ
人に甘えたら甘えたで突き放される悟浄。かわいそうな役回り。

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▲家族計画