第5話 (天蓬)
土曜日の朝。
2度寝、3度寝とまどろんでいると八戒に起こされた。
「天蓬、起きてください。みんなでスーパーに行きますから!」
なんでも、今日はみんなで昼ご飯にピザを作るという。
4人で買い出しに出かけて、スーパーから帰ると、すぐに料理が始まった。
八戒と悟浄が楽しそうにパン生地をこねる。
横からあーしてこーしてと口を出す捲簾が、
まるっきり『お父さん』してて。
・・・なんでしょうこの空気。
昨日までのピリピリした雰囲気はまるっきり無くなっている。
捲簾も、何事もなかったかのように
「お前はピザに乗っける具、用意しといて。」
などと普通に話しかけてくる。
気持ちよく晴れて、さんさんと日の光が差し込むダイニングで
男4人が料理している・・・。
その楽しげな雰囲気の中で自分もソーセージなど切っていると
不思議と、昨日までの捲簾への妄執も忘れて。
そしてピザに具を乗せる子供達の楽しそうな顔と言ったら。
焼き上がった時のテンションと言ったら。
ピザを食べるうれしそうな顔と言ったら。
見てて和む程。子供は単純でいいですね。
その八戒と悟浄が天蓬のピザもおいしい、と笑うから。
嬉しいような、こそばゆいような気持ちになって
なんと答えて良いものか分からなくて
とりあえず「そうですか。」としか言えなかった。
捲簾もちょっと弄っただけでなんでも返してくれる。
昨日はあんなに苦しかったのに。
今は、晴れ晴れしいような、清々しいような。
楽なような。暖かいような。
この気持ちはどこから来るのでしょうか。
こういう日も、あるんですねえ。
ピザ作ってみんなで食べてるだけなのに。
食後、ベランダで煙草を吸う。隣には捲簾が。
空は雲ひとつなく晴れてて、日差しが気持ちよくて、
ひなたぼっこには最適な日和。
「お前、やけに機嫌いいなあ。」
これまた普通に、捲簾が話しかけてくる。
「煙草が美味しくて。そういうあなたも機嫌いいですね。」
そう言ってちらりと盗み見ると、捲簾はこちらを真っすぐ見据えて言った。
「もういいか、と思って。」
「何が、ですか?」
「お前の事。」
その言葉で、穏やかな気分が一気に吹き飛び、緊張する。
「はあ、それは・・・。」
一体どういう意味でしょうか。
捲簾がチラリと部屋の中を確認してから、言った。
「俺は今まで、お前と関係持ったら、ガキ共を簡単に捨てて
いくとこまでのめり込んじまうんじゃないかと思ってた。」
そう。それは、前も聞いた。捲簾は煙を吐き出すと、続けた。
「でも、全然大丈夫だった。
ガキ2人も全然手放す気なんてないし。
無理して、我慢して、やな空気垂れ流して、ガキ共心配させるくらいなら
自分のやりたいようにするのが、一番丸く収まるんじゃねえかと思って。」
長年のお互いの執着が、ひっそりと終わろうとしてる。この穏やかな日に。
「あなたと僕がどうこうなったからって、
この家族は何も変わらないでしょう。」
これは、今日気づけた事ですけど。
珍しく、私欲を絡めずに、言えた。
「・・・だな。」
この家族は、いびつだけど。いつもバラバラだけど。
僕はこんなだし、捲簾も立派にお父さんしてるとは言いがたいけど。
こうして一緒にご飯食べれば、大丈夫。
笑って、捲簾に言った。
「ほらね、雨降って地固まったでしょう?
僕のお陰で、自分に素直になれて良かったですね。」
「・・・・っ!それをてめえがいうな!
っつーか俺はあん時の事、許したわけじゃねえからな!
覚えてろよ!」
少し弄ると捲簾がむきになる。
胸ぐら掴まれても。間近で毒づかれても。
それでも。
こうして返してくれるのが、うれしくて、うれしくて、楽しくて。好きで。
「まーた夫婦漫才かよ。」
気づくと悟浄と八戒が部屋からこちらを見てた。
八戒が、満面の笑みでぴしゃりと言う。
「ベランダでそんな大声出すの、やめてくださいね。
となり近所に迷惑ですから。」
「はい・・・」
見られてた事に軽く動揺してる捲簾が、
八戒に注意されて大人しく返事する捲簾が
面白くて、おかしくて、楽しくて。好きで。
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