第3話 (八戒)

この家族はちょっと変わってる、と思う。
普通の家族がどうなのかは知らないけど。
悟浄は自由だし気楽でいいだろ?って言ってたけど、
これじゃあ寂しいと思うんですよ。
同じ家に住んでるのにみんなバラバラで。

ひとつ年上の兄、悟浄とは
たくさん話すようになったし、遊ぶようにもなって大分親しくなった。
一緒に食べて、話しして、一緒にいて。
この家で、僕にとって家族らしい家族と言えば、悟浄だけ。

父さんは仕事仕事であまり家にいないし。あまり関わりがない。
いまだにどんな人なのかよく分からない。
天蓬はたまに一緒に食事したり話ししたりするけど
兄弟らしいやりとりがあるわけでもなく、兄と言われてもピンとこない。

『父』とか『兄』とか『子供』とか。
それぞれのポジションはあるのに、それが曖昧で。
父さんと天蓬は家族というより『一緒に住んでる人』みたいだ。
天蓬はなおさら。養子という事情をさっ引いても所在なさげに見える。

今日は悟浄から友達の家で晩ご飯をごちそうになる、と連絡があり
たまたま早く帰って来た天蓬と、2人きりで夕食だった。
「はっかーい。今日の夕飯なんですか?」
夕飯の準備をしているところに、急にうしろから
抱きしめられてびっくりした。
背中全体に伝わる天蓬のぬくもり。僕の目の前で絡まる天蓬のきれいな手。
体が、一瞬にして熱くなるのが分かる。一体どうしたんでしょう。

「カレー、です。匂いで分かってるくせに。」
天蓬のこういう気分屋というかマイペースなところは
好きだけど、苦手だ。
母さんに似てるから。

「八戒は、僕に何も言わないんですね。
・・・あ僕の、じゃがいも少なめでお願いします。」
最近は父さんと天蓬に何かあったみたいで
家の中がピリピリしてるから、その事だろう。

「天蓬、カレーがよそえないです。離れてくださ・・・」
そう言った瞬間、天蓬の腕はますますぎゅう、と締まった。
「はっかい、もうちょっとだけ。」
そう言って、しばらく僕の事を抱きしめてた。

自由で気楽だって言ったって
こんな冷戦みたいな喧嘩するなんて、寂しい証拠。
言いたい事も言わないで、無言で相手に感情を
ぶつけるなんて、相手に甘えてる証拠。
そうしてそのとばっちりを食うのが僕たち子供なんですから。

平気なふりしてるけど、みんなどこか寂しくて。
あの時、みんなで餃子作った時。
みんなどれだけ、楽しそうな顔してたか知ってますか。
自分がどれだけ、楽しそうな顔してたか知ってますか。

このてんでばらばらの家族が、それも自覚してないこの家族が、
それを自由だと思ってるこの家族が
唯一まとまるのは。

また、みんなで料理作りましょうよ。父さん。

カレーを食べてしばらくした頃、天蓬がぽつりと言った。
「八戒、このカレーおいしいですねえ。学食のと全然違う。 」
何の変哲も無い、カレールーで作った普通のカレーなんですけどね。
僕は笑って言った。
「・・・おいしいのは、2人で食べるからですよ。天蓬。」

天蓬は、ふぅん、と言うと暫くカレーを見つめて考え込んでしまった。
じゃがいも山盛りの、カレー。
全くこの家の人はみんな自分の気持ちに鈍感だ。

 

第4話へ

▲家族計画