第1話 (悟浄)
ドカッ!
「こんのクソオヤジ!!!」
「いってぇ!」
夜。運悪く帰ってきたオヤジとちょうど鉢合わせした。
オヤジは早く寝ろとか歯磨けよとかうるさく言って来る。
オヤジ面してそんな事言う前にやる事があんだろうが。
頭にきたからケリ入れてやった。
「もう帰ってくんな!」
「一体なんだってんだよ!?」
いい加減にしろよ。家にヤな空気まき散らしやがって。
どうせオヤジのせいなんだろ。いつにも増して険悪な雰囲気なの。
どうにかしろよ。
天蓬のこと。
また違う夜。オヤジもとっくに帰って寝てる時間。
たまたまトイレに起きたら居間が少し明るかった。
ドアを開けると天蓬がダイニングで酒を飲んでる。
肘をついて遠くを見るようにして。
コップの中の液体はぐびぐびと、どんどん天蓬の中に
吸い込まれていく。
「天蓬。まだ起きてんの?」
「あー悟浄、おつかれさまです。こっちおいで。」
この酔っぱらい。
天蓬の正面に座る。
天蓬はいつもと全然違ってにこにこしてる。
普段は絶対しない顔。元々綺麗な顔がもっと綺麗で。
言いたいことは沢山あるのに顔もまともに見られない。
「天蓬さ、オヤジと喧嘩した?」
「なんでです?」
なんでって。ここ最近の2人の険悪さといったらないのに。
天蓬の質問には完全スルーで、また聞いた。
「オヤジと天蓬って、仲悪いの?」
「・・・仲ねえ。仲悪く見えます?」
小首をかしげて逆に質問してくる。
知るかそんなこと。
ただ俺は、前みたいに普通にしてくれればいいだけで。
普通、ってなんだかよく分かんねえけど。
「何があったか知らねえけど。八戒が不安がるからさ、そーゆーのやめろよ。」
そう言ったら、天蓬がふふ、と笑って手を伸ばして来た。
長くて細いその指で、俺の髪にやさしくやさしく触れる。
「不安なのは悟浄でしょ?」
うるさい。
俺を産んだ母親には、会えない。
オヤジはその理由も教えてくれない。
なんでか知らねえけど会わせてもくれないって事は、
多分むこうは会いたくないんだろう。
それって、俺の事産みたくなかったのかなとか
俺の存在は邪魔ってことかな。とか、
頭ん中でいろいろ考えて胸くそ悪くなるけど。
もう諦めた。
顔も知らない暮らした事もない奴に期待しても駄目なんだ。
期待なんかしたら、もっと胸くそ悪くなるだけ。
でも。
オヤジも天蓬も今までずっと一緒だったのに。
たまにオヤジがメシ作るようになって、みんなでわいわい食ったり。
なんか問題起こすと天蓬は必ず迎えに来てくれたし
八戒がうちに来てからは3人でゲームしたりして。楽しくて。
だから、これからもそうやっていけると思ってたのに。
今は大人のわけわかんねえ事情で
家の中の空気がぴりぴりしてて、どんよりしてて。
このままじゃ、理由もなんにも分からないまま
放り出されるんじゃないかって。
置いていかれるんじゃないかって。
いろいろ考えちゃって、わけ分かんないくらいムカついてくるんだ。
だからこないだオヤジの顔見た瞬間にキレて
思い切りケリ入れた。
なのに。
オヤジだと言いたい事言えてケリ入れられるのに。
天蓬には何も言えないし何もできないのはなぜ。
天蓬は犬猫でも触るみたいに俺の髪を撫でてはにこにこしてる。
ムカつくけど。何か言ってやりたいけど。
けど。
天蓬の指先が俺の髪をくるくると遊ぶ。
もうちょっとこうしてて。
ちらりと天蓬を見ると
優しげだけど何考えてるか全然分からない
天蓬のその目が俺をじっと見てて。
すぐに目をそらした。
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