第1話 (悟浄)
ある日突然弟が出来た。1歳下の小学5年生。
八戒という名前で、女みたいな奇麗な顔してる。
「こいつ、今日からお前らの弟だから。仲良くな。」
という説明責任を全くはたしていないオヤジの言葉ひとつで、
八戒は家族の仲間入りをした。
俺らの弟ってことはオヤジの子供ってことか?
いやそうとも限らない。
俺はオヤジに瓜二つとか言われるが八戒は全然だし。
母親は同じなのか?今までどこに住んでた?誰と住んでた?
分からない事だらけだ。
オヤジは「ガキ同士放っておけば勝手に仲良くなる」とでも
思ってるらしいがこの歳になるとそうはいかない。
前情報ってもんが欲しい。
とは言えど、オヤジは製薬会社だかの営業で
毎晩帰りが遅いわ日曜は接待か寝てるわで会話なんてほぼできない。
「父親はあなたのお父さんと同じで、母親は違うみたいですよ。」
俺の14歳上の兄貴、天蓬がそう教えてくれた。
26歳大学院生。大学を出たのにまた学校に行って薬だかなんだかの
研究をしてる。学校嫌いの俺には絶対真似できない。
ていうか小さい頃は何も疑問に思わなかったが、
天蓬は養子だ。明らかに。オヤジが36歳だから。オヤジの子供ではない。
だから兄貴と言っても俺らとは血がつながってないのだが
なぜ、いつ養子に来たのかは一切分からない。俺が物心ついた頃にはすでに一緒にいた。
オヤジからの説明は当然のようにないし。自分からも何も言わない。
そもそも天蓬は表情が変わらないから何を考えてるのか分からない。
唯一。分かるとしたらオヤジの事が嫌いだって事くらいか。
絶対オヤジの事を「お父さん」と呼ばない。「捲簾」と名前で呼ぶか
俺と話してる時は「あなたのお父さん」だ。
態度もよそよそしいし。仲が良くない。多分。
そしてこの家には母親がいない。
そんなの一度も見た事無い。
この家にいなくたって、この世界のどっかには居るはずなのに。
今なにしてんだろ。
どこにいるんだろ。
なんで家にいないんだろ。
オヤジからの説明は当然のようにない。
聞いてもはぐらかさせるし。あのクソオヤジ。
そろそろ教えてくれてもいいんじゃねえ?
俺だってもう12だし。
そんな家族。
だから突然「弟」が登場しても優しく迎え入れるようなノリではない。
八戒は家に居る時は大概、部屋の隅っこで小さくなって本を読んでる。
かわまないでという空気を出すのは
心の底ではかまって欲しいと思っている時の裏返し。
そんな奴をかまう役割なのは
俺しかいないわけで。
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