第6話 (天蓬)
ベランダから回り込んで悟浄の部屋に侵入すると、
丁度良く自分の前に八戒が転がり込んで来た。
ゴリ。と頭に銃口をつきつける。
「まったくこんなことしでかして。」
膝をついて間近に八戒を捉えると
自分の気持ちを再確認するどころか、
爆発しそうなくらいに膨れ上がった。
もうずっと前から。
八戒が「おはようございます」とか「お疲れ様です」
とか言って、にこりと笑いかけてくれるたび、
ものすごく和んでいる自分がいた。
長い間諜報の世界にどっぷり浸かって、
任務の為なら自分の手も汚して、自分の体も売るような人間がだ。
部下の顔ひとつでいちいち和むなんて。
だから、目をかけて育てた。大切に大切に。
それは、八戒が自分に好意を寄せていると
なんとなく分かってからも。
上司と部下という関係は崩さずに。部下として、大事にした。
このぬるま湯にずっと浸かっていたかったから。
この関係が壊れてしまうのが怖かったから。
笑っててほしかったから。
お互い頑固で直情型。そして仕事を最優先にするタイプ。
先に進めばうまくいくわけが無いと、勝手に決めつけて。
だから。全部気づかない振りをしてかわし続けてたのだ。
その結果が、これ?
さあどうする。
殺すのか。
それとも。
でも。八戒の頬に触れるたらもう、どっと気持ちがあふれて
他には何も、考えられない。
「八戒。今までずっと黙ってましたけど・・・」
好きだ。どうしようもなく。
キスした。やわらかいやわらかい八戒の唇。
こんな時に。隣の部屋では捲簾が悟浄と
やり合っていて、銃声やらモノが壊れるものすごい音がするし
破片がこちらにひゅんひゅん飛んで来る。
流れ弾だっていつ飛んで来るか分からない。そんな中で。
唇が離れたその時。八戒が涙を流していた。
目を潤ませて。唇を噛んで。僕を睨んでいる。
ああ。駄目だ。そうやって八戒に責められても
自分の気持ちが止まらない。見つめられて、逆に気持ちは高ぶっていく。
今度は八戒の舌を絡めて激しく、深く深く口づける。
「あ・・・ふ・・・っあなたって、人は・・・っ!」
八戒が、突然僕の胸ぐらを掴んでそのまま押し倒してきた。
「んっ・・・!はっか・・・」
今度は、八戒の舌が僕の口中を這い回る。
されるがままになって、気持ちよさに体がどうにかなりかけた次の瞬間、
ビリッと衝撃が走る。唇を噛まれた。
「あなたはいつもそう。自分のしたい時にしたい事だけやって。
その裏で人がどんな思いしてるか考えた事なんて無いんでしょう。」
八戒が上から僕を見据えて言う。 僕を責める目。
なんてきれいな顔。
八戒に触りたくて触りたくて
八戒の頬に再び手を伸ばしたけど、
「やめてください。」とはねのけられた。
「この期に及んでさわらないで。」
その顔も口から出る言葉も圧倒的に冷たいのに、
一方で僕の上に跨がったその腰をわざとらしく揺らすから
甘い刺激が体の中心に伝わって
八戒が欲しい欲しいと体中が疼いた。
「んっ・・・」
ああ、八戒は多分行ってしまう。
「八戒。最後にもう一度だけ・・・」
触らせて。キスさせて。もう駄目ならせめて。
「駄目。僕はもう行きます。悟浄と。」
八戒が僕の体の上から退こうとする。
八戒が行ってしまう。
「天蓬。苦しそうですね。いい気味です。
でもこうなったのは・・・」
そして、おもむろに顔を寄せると僕の耳元で囁いた。
「全部あなたのせいなんですよ?」
その時八戒は笑った。いつものように。
言ってる事とは対照的に。にこやかに。
そして、身を翻して僕の体から離れて行く。
ああ、八戒が行ってしまう。
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