第4話 (悟浄)
「どうして僕を助けたんです?」
そう言われてもどう答えていいか分からない。
ただ。眉間に銃口突きつけた時。
こいつ笑ったんだ。にっこりって。
子供に笑いかけるみたいに。
その笑顔に見入って、我に返った時はもう遅かった。
強烈な肘鉄をみぞおちに食らって
動けなくなってる間に、八戒は逃げた。
息もできないくらいモロに入りすぎて、
路地裏に逃げ込む八戒に向かって何発か撃ったのが精一杯。
しかし。八戒はすぐに見つかった。
さっき適当に撃ったのが命中したらしく、
路地に点々とシミを作っている血痕を辿っていくと、
路地の奥で撃たれた腕を押さえてうずくまっていた。
今度こそ、と銃口突きつけたのに。
「ちょっと、貧血で。」なんて言って顔真っ青なのに
また笑いやがるから。
トリガーは引かずに、気づいたらこいつの手をとって走ってた。
そんなこんなで、今に至る。
「でも貴方、殺されますよ。」
んなこた分かってる。だいたい報酬額からして異様な額だ。
組織が大金払ってでも消したい奴をこうして殺さず匿ってるんだから。
目ざといあの組織の事だ。俺がしくじったことも匿ってる事も
とっくに知ってるだろう。
そして俺も立派に共犯扱いだ。
「とりあえず。動けるうちにここ出るぞ。」
この場所を嗅ぎ付けられるのも時間の問題だ。
逃げる準備っつっても、いくつかあるヤサのひとつだから
ろくなモンないし、武器以外で持っていくモンなんてないが
変装くらいはしないと。念のため。
「ここまで来て僕の事見捨てないですよね。
貴方優しいですもんねえ。」
まーたにっこり笑う。
あーやだやだ。自分の「かわいさ」ってやつを知ってる奴は。
ニコニコしてりゃあ何でも我がまま通ると思いやがって
そうは行かねえぞコノヤローと思いつつ
今までそういう女の手口というか計算に何度乗ってしまったことか。
今もばっちり乗ってる。
こいつの笑顔には逆らえない。なんとなく。
さっき会ったばかりだというのに。
こいつがやばい事しでかして組織から狙われてるとか、関係なく。
こいつの笑顔は毒を含んでいるような気がする。
今までの女達のそれとは、ちょっと違って。
毒がある事は分かってるのに。逆らえない。
でも。見捨てないなんて言うのも癪で
何も言わず八戒に変装用の服やらカツラやらを投げた。
八戒はそれらをキャッチすると、満足げに
あの笑みを繰り出しておっとり言うのだ。
「貴方、お人好しすぎやしませんか。
殺し屋なんて、向いてませんね。」
「お前にだけは言われたくねえ。」
そのお人好しが、足手まとい極まりないお前と
一緒に逃げてやるっつってんだから。
少しは感謝しやがれこの野郎。
俺は心の中でそんな悪態つく事しかできなかった。
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