第1話 (八戒)

「いつまでも死んだフリしてねえでさっさと起きろ。」
「あ、気づいてました?」

ベッドから起き上がると、沙悟浄が目の前で
ずるりと変装用の金髪のかつらを取り去った。
現れたのは、奇麗な、紅い髪。
まともにこの男を見たのは初めてだ。
以前組織のデータベースに載っていたのを見ただけで。
見た目、ちゃらちゃらしたその辺のお兄さんだが、
こう見えて殺し屋。
そして自分はその殺し屋に殺されるはずだった
某諜報機関の職員。

「弾は貫通してっから。血も止まったし。
抗生物質の錠剤調達してきたから、飲んどけ。」
「・・・はい。」

今から数時間前。僕はこの人に撃たれた。
以前見ていたデータベースによれば、沙悟浄は
組織が雇う殺し屋の中でも上位ランク。
至近距離で僕の眉間に合わせた銃口から弾丸が逸れることなど
まずありえないのだが、結果的に弾丸は僕の眉間ではなく腕を貫いた。
その上沙悟浄は、殺しそびれた僕をこうして助け
自分の隠れ家に連れ込んだ。
その後僕は出血多量で気を失って
数時間後のさっき目覚めて、今に至る。

「どうして僕を助けたんです?」
「美人は殺さない主義なの。」
悟浄は目をそらしてそう答えた。
口調はちゃらちゃらと軽々しいのに、よく見ると顔は笑ってない。
まあ、そういう事にしておいてもいいですけど。

僕は沙悟浄の目の前に回り込むと
キスをした。唇だけ、撫でるようなキス。
沙悟浄は拒否するでもなくキスを受け入れてる。
唇も、指先が触れた頬も、沙悟浄は燃えてるみたいに熱い。
「ありがとうございます。」
そう言って、ニコリと爽やかめの笑顔を出力した。

「でも貴方、殺されますよ。」
僕は知っている。この殺し屋を雇ったのは、僕がいた組織。
僕は自分のいた組織から命を狙われている。
その僕を助ければ、この人も命を狙われる。
そういうことになっている。
首を突っ込んではいけない事に、首を突っ込んでしまった。
だから、あっけなく消される。そういう世界だ。
黙って消されるつもりはないですけど。

この抹殺指令は組織のどこから出で、どこまでが関知しているのだろう。
長官や副長官クラス?それとも。

直属の上司である天蓬の顔が、
ふわりと頭の中に浮かんだ。
あの人は関知しているのでしょうか。

 

第2話

▲風にあやかって逝け