第8話 密通

しかし、程なくして車は映画館の方向とは
別の場所を走っており、八戒は動揺した。
「本当にこの道で合ってます?」
そう言っても運転手はバックミラー越しに八戒を
一瞥しただけで何も言わない。
しばらくして車はとあるアパートの前で止まり、
八戒の緊張感がより一層高まった。
すると運転手はひとつの封筒を八戒にさし出す。
封筒には部屋の番号が書かれており、中には鍵が入っていた。
「ここでお待ちです。」

八戒は車を降りて、アパートのその部屋へと入った。
10畳程の小さな部屋にはベッドとテーブルがあるのみ。
部屋には誰もいない。窓が開いていて、雨の音がざあざあ聞こえた。
逢い引きか、それとも罠か。悟浄との密会は尾行されないよう
遠回りしたり人力車を乗り継いでいる。バレていないはず。
そう思いながら八戒は窓を閉めた。
すると閉めた窓ガラスに捲簾が映りこんだ。

「・・・っ!!!!」
驚いて振り向くと、捲簾が椅子に座ってこちらを見ていた。
今朝と違っていつものスーツを着込んで。
八戒が気づかなかったのが可笑しかったのか、ニヤニヤしている。
「居たなら言ってください・・・!」
怒ったふりをしながら八戒は捲簾に近づいた。
すると捲簾はすっと立ち上がり、八戒にキスする。
「んっ・・・待って、落ち着いて・・・。」
いきなり水音がするような激しキスに抵抗し、体を離そうとする八戒。
「焦らす気かよ?」
捲簾の吐息が荒い。
そんな余裕の無い捲簾を見据えて八戒は笑みを出力した。
いつもの朗らかなものとはまた別の。
「いいから座ってくれません?」
そうして捲簾から少し離れると、ジャケットを脱いで
ベッドにかけた。そして、捲簾を見つめながら
Yシャツのボタンを、ひとつひとつ外していく。

徐々に白い肌が露になっていくと、限界をこえた捲簾の顔からは笑みが消え、
いきなりつかつかと八戒に近づいたかと思うと乱暴にキスした。
八戒は逃れようとするが首をがっちりと掴まれ
身を捩ることしかできない。
「んっ・・・ぅあ・・・ん・・・んんっ・・・っ!」
ねじ込むように入って来た捲簾の舌と
貪るように八戒を求める唇と、熱い吐息とで
八戒は息ができない。ようやく解放されて息を整えていると
今度は突き飛ばされ、壁にぶつかった。
「あぅっ・・・!」
振り向こうとするがそのまま壁に押さえつけられる。
捲簾の手がせわしなく八戒の下半身を弄り、下を脱がしにかかった。
布が裂ける音がする。乱暴にはぎ取られると、
いきなり指が八戒の中に入ってくる。
「・・・っ!・・・っや・・・!」
突然痛みが体を貫き、八戒が言葉にならない悲鳴を上げる。
そんな事はおかまい無しに指を増やしながら無理矢理
ぐりぐりと挿入を繰り返した。
八戒は、しがみつくように壁に爪をたてる。

そして、指が引き抜かれたと思った次の瞬間、
今度はベッドに突き飛ばされ八戒はうつぶせに倒れた。
振り返ると捲簾が自らのベルトを引き抜き、振り上げている。
ヒュンッという空気を切るような音。
逃げることもできず身を硬くすると、そのままビシッと大きな音を立てて
背中を打たれ、痛みのあまりに体を反らせた。
「ぁッ・・・!」

捲簾は痛みに悶える八戒の両手を取ると、
ベルトで後ろ手にきつく縛り上げる。
そして自らも下だけ脱いで猛った自分自身を
八戒の中に、後ろからずぶずぶと無理矢理挿入した。
「・・・っ!!!!!」
もちろん八戒には快楽なんて感じない。痛みだけに
体を支配され、逃げることも叶わずただただ耐えた。
捲簾は八戒の髪を掴みながら、後ろから容赦なく突いてゆく。
「あッ!あぁッ!・・・ッ!」

捲簾の凶暴なセックスで、八戒は分からなくなった。
これは逢い引きではなかったのか。
やはりどこかで自分の正体がバレていて、
このまま尋問されて嬲り殺されるのではないのか。

すると、八戒の両手を縛っていたベルトが突然緩められ
両手が自由になった。八戒は手をついて
挿入されたまま振り返ろうとすると、また乱暴なキス。
その時、捲簾と一瞬目が合い、その揺れる瞳を見た瞬間、
八戒の体がカッと熱くなった。触られてもいない自分自身が
かたく、濡れていく。ひくひくと震える。

捲簾の目は、3年前のあの時と同じ。ひたすら冷たかった。
一瞬目が合っただけで全て見透かされそうな鋭い視線。
目だけではない。普段のへらへらした笑みなんてどこにもない。怖い。
だけど。
八戒は感じた。
ただただ、この男は自分を求めているだけだと。
こんなに激しく。こんなに暴力的に。こんなに純粋に。
そう感じただけで、体中の感覚器が快楽を享受しだした。
その一瞬で。爆発的に。針が振り切れるみたいに。

今まで乱暴に挿入を繰り返されてたそこは、解されてきたこともあってか
痛みだけではなくなっていく。
捲簾のそれに突かれるたび、快楽に支配されていく。
「はぁ・・・あっ・・・んッ!」
自分の声が、本当に自分から出てるのかと思うくらい甘ったるい。
けれどこの喘ぐ声を抑える事なんてできない。

捲簾が後ろからYシャツを弄ると、まだ止まっていたボタンが
ブチッとはじけ飛んだ。そして捲簾の指がカリカリと
胸を弄ると、より大きな声が八戒から漏れた。
「あッ!・・・あぁ・・・ん!」
八戒は自分自身がどくんと脈打つのが分かった。
捲簾の手がそのままするすると下に伸びていき、
その脈打つ八戒自身に手を這わす。
ぬるぬると濡れたそこは滑り良くぬちゃぬちゃ音を立てた。
「だめ・・・です!触ったら・・・でる・・・んんっ!」
八戒が首を振りながら、息も絶え絶えに懇願すると
捲簾は逆に勢いよく扱いて責めたてる。
「や!あぁっ!だ・・・めっ・・・!」
八戒は堪えきれず捲簾の手の中に吐き出した。

それから少し時間が経って。
八戒はぐったりとベッドに横たわっていた。
Yシャツは袖だけ通した状態で、他は何も身に付けていない。
そのYシャツから覗く白い肌には、うなじから背中へと
紅い痕が点々と浮かんでいる。太ももには捲簾が吐き出した
精液が筋になってとろりと流れている。

捲簾はというと、椅子に座って煙草をふかしながら
そんな八戒を見下ろしている。
来た時と同じように乱れなくスーツを着込んで。
ふと、腕時計を見て時間を確認すると
「ほら、お前のジャケットだ。」
と無表情に言ってジャケットを八戒の上に放り投げ、
スタスタと部屋を立ち去った。

バタン。

ドアが閉まる音がすると

八戒は

小さく笑った。

 

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▲秘密