第9話(八戒)

とあるホテルの一室。

「ここ最近予約が取れん程人気だとか言って、
捲簾の奴には随分ぼられたわい。」
と、待覚社長。
「すみません・・・。」

「それで来てみれば、これだ・・・」
「っ・・・」
腹から胸、首元までを、つーっと何かが這った。

目隠しされていて、いつ何で触れてくるのか分からない。
因に、手は後ろ手にベルトで縛られていて、
足はそれぞれ曲げた形でベルトで縛られている。
裸でM字開脚状態・・・。
かなり、恥ずかしいんですけど。

待覚社長はたまにこういう事をさせる。
自分は悠々と煙草を吸っている中、
秘書なのかボディガードなのか
良く分からない黒服の男が淡々と自分に目隠しをし、
服を脱がし、あらかじめ準備したのであろう
ベルトで縛り上げた。

本番はどっちがするんだろう、なんて考えてたら
おそらく待覚社長が僕の顎をくいっと押し上げた。
「相当色に溺れておる。
男でもできたな。」
「はは・・・最近忙しくさせてもらっているからですよ。」
「ごまかしても分かる。
体が、大分違う。」

裸になっただけなのに、何が分かるのだろう。
どうして、ばれたのだろう。

そう、あの日から、何もかもが変わった。
濁色だった世界に色がついた。

悟浄がほろ酔いで帰って来る時の
「ただいまあ」というやさしい声。
出迎える自分の手を強引に握って引き寄せるその力。
あたたかい胸。キス。煙草の香り。
悟浄の胸の中で互いの体温を感じ合って眠る安心感。
その日あった嫌な事などするすると忘れてゆく
明日の憂鬱なんてどうでもいい。

男同士で、しかも妖怪で、コールボーイだなんて、
どこに着地するのかも分からない、
いつ終わるともしれない恋だなんて分かってる。
でもそれすらどうでもよくて。
今いまが良ければそれで良かった。
悟浄がいればそれでいい。

そんなことを考えていたら
自分の体が熱くなっていくのが分かった。
待覚社長がくつくつと笑う。
「まだ触れても居ないのに・・・何を考えておる。」
「・・・すみません。」
「分っかりやすい奴だのぉ
天蓬とは逆じゃの。
あいつは何を考えているか分からん。
いや、何を企んでいるかと言った方がよいか・・・。」
そう言って、既に濡れ始めた僕のそれに、触れてきた。

 

仕事が終わってホテルを出る。
携帯をチェックすると、
捲簾から明日の仕事について留守電が入っていた。
几帳面な捲簾は、仕事の依頼は必ず電話で、
留守電に入れるなんて事、無かったのに。
『明日の客は天蓬だから。
知ってると思うが一応ウチの従業員な。
お前が人気の理由を知りたいとか言いやがって・・・
場所は○○ホテルの303号室。20時に現地に行ってくれ。』
待覚社長の話に出てきた天蓬が、明日の客。
そして捲簾のすこぶる不機嫌そうな声。

気になって、帰ってから悟浄にその事を話すと
「明日の客が天蓬!?
そら捲簾もばつが悪いっつーか、機嫌も悪くなるわな。
つか面倒な奴に目を付けられたなお前も。」
ニヤニヤしてそう言った。

その時なにも知らない僕は
なんだか変な人みたいだけど、大丈夫かな。
ぐらいにしか思ってなかった。
ま、いっか。悟浄はここにいる。
そしていつも通り、悟浄とぎゅっとくっついて眠りについた。

だから
こんなに早く恋が終わるなんて、思ってもいなかった。
天蓬の、あの、一言で。

 

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