第10話(天蓬)

指定したホテルの一室。
適当に自己紹介しあって、
ベッドに腰掛ける八戒の上に、対面座位のようにして跨がると
動揺したように八戒の口から息が漏れた。
初々しくて可愛い。
八戒の顔を両手で優しく包んで、見据える。

「親の借金でこんな仕事してるんですって?大変ですね。」
「はあ、まあ。
天蓬さんは、どうしてこの仕事を?」
「暇つぶしですかね。昼間は大学で講師をしています。」
にっこり笑って嫌みに言うと、八戒の目の力が強くなった。
たったこれだけで。意外と直情型。
瞳の色が濃くなったような。少し潤んでもいて。
なんて綺麗なんだろう。

捲簾はもっと綺麗だ。
綺麗だけど、その感情が僕に向けられたことはない。
こんなに近くに居るのに。長い付き合いなのに。
怒りも哀しみも憎しみも、全ての感情が。
この仕事を始めたときも。悟浄と寝た時も。
そして今回も。

今、八戒は僕だけを真っすぐに見据えて
苛立ちをぶつけてくる。
強い瞳で見つめられる、なんて快感。
八戒の瞳も頭の中も全て独占していると思うと、
八戒と接しているそこが、疼いた。

首筋の、蔦模様に舌を這わせる。
「んっ」
と漏らす声もどこかふて腐れていて。そそる。

「ねえ、悟浄と寝ました?」
「え?」
一瞬苛立ちが和らいだ。図星。
八戒のサボりがバレて、悟浄がヤクザ絡みのゴタゴタを
片付けたあの日から、人が変わったように八戒がバリバリ働き出した。
その上以前にも増して人気が出たから
これはひょっとしてと思っていたけど、ビンゴだった。やっぱり男。

「僕も前に寝た事があって。
すごく良くしてくれますよねえ。」
「なんの話しです?」
八戒がさらに苛立った。
こんなに嫉妬するなんて。余程好きなんですねえ。
「さすが元ナンバーワン。
男の体も女の体もよく知ってるなって。
あぁ、もちろんお金払ってですよ。今のあなたと同じように。」
「あの、ちょっと黙っててもらえます?」
腰を抱かれたと思ったらそのままベッドになぎ倒された。

八戒が少々乱暴に、胸を弄る。
べろりと舌を這わせる僕の首筋に、歯が当たるのは故意だろう。
妖怪特有の、鋭い犬歯。
「んっ・・・!あぁ・・・は・・・、でもね、」
怒りの混じった視線と、少々痛みを感じる愛撫が心地よくて
言葉がなかなか続かない。
「はっ・・・ぁ・・・僕から・・・の忠告。」
「なんです?」
『なんです?』といいつつ聞きたくもないと言わんばかりに
すでに熱をもったそこを膝で擦りげる。
「・・・あぁっ・・・!」
ぐりっといい所に当たるんだけど、
直接さわれてるでも指を入れられてるわけでもないもどかしさが、
なんて快感。

「あんまり、深入り、しない方が・・・
悟浄は、それが仕事、だから・・・あぁっ」
腰が揺れてしまう。八戒の膝に、ぎゅうっと自分の熱を押し付けた。
「捲簾から・・・頼まれて、るんですよ。八戒のこと。」
「だからなんです?」
声が上ずる。
目が、だんだん殺気を帯びて。
「お金、もらってますから。」
八戒の膝攻めがぴたりと止まった。
僕を睨んだまま。賢い子。なんて愛おしいんだろう。
初対面の僕の言う事なんて信用できませんよねえ。でも。
「捲簾から、そう聞いたんです。
嘘だと思うなら、捲簾に、聞いてみてくださいよ。」

八戒の目から怒りが消えて、すっと冷たい目で僕を見下した。
でも、肩で息をしてる。
僕を信用できなくても、動揺はしている。たまらない。
事の真偽はともかく、自分にとって不愉快な事を言い続ける僕を
黙らせようと思ったのだろう。
また、膝で股を擦り上げる。
もう、中はどろどろ。もう限界。
服を脱ごうと手を伸ばそうと思ったら
「だめです。」
手が動かなかった。見ると、八戒の体から蔦が伸びて両手首をベッドに押さえつけていた。
「はっかい、 あっ・・・ぅ・・・ぁっ・・・」
ぐい、ぐい、と再びリズム良く擦り上げられる。
苦しくて、苦しくて、とても気持ちいい。
「天蓬さん。」
氷のように冷たい八戒の目が、僕を見つめる。
八戒は、知ってる。僕が限界だということを。
今、そんな目で見られたら。
「時間です。お金は捲簾さんに渡しておいてください。」
そんな言葉言われたら。
膝が離れるそのとき。
「あっ・・・い・・・く・・・」
ぶるりと体が震えた。

 

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