第13話(捲簾)
面倒くせえ。
タバコを吸おうと思ったら空だった。
減るの早くねえか?と目の前の灰皿を見たら、吸い殻が山になってる。
あー面倒くせえ。
ますますイライラした。
買いに行くのは面倒くさいがタバコがないのは耐えられない。
近所のコンビニで買ってくるか。
のっそり立ち上がった。
コンビニから戻って来ると、事務所が入っている古マンションがなにやら騒がしい。
工事の音とも違う・・・ガシャン、ガタンと
何かが壊れる音、ガラスが割れる音。
何事かと思ったら、管理人室から管理人のおっさんが顔を出して
「お宅ん所だよ。」
まじか。こんな時にヤクザの連中か?にしもて心当たりは無い。
事務所は2階。エレベータよりも階段の方が早い。
「警察にはまだ連絡してないから。」
と管理人室からおっさんの声。
「恩にきるわ。」
とにかく階段を駆け上る。
こういう時に限って鍵閉めるの忘れてたようで。
半開きになってるドアを開けると事務所は滅茶苦茶。
応接セットのガラステーブルと灰皿の破片が散乱し、ソファは傷が付きまくっている。
俺の机も同様。その上に置いていたはずのノートパソコンはヒビが入って無残に床に転がっている。
チェストも倒れて中の書類やらが散乱している。
そんな中でバッドを振り回してあちこち破壊しまくる悟浄の赤い髪が揺れてた。
天蓬との会話をふと思い出した。
八戒がヤクザに拉致られて悟浄が丸く収めた後だっけ。
「へえ、悟浄が八戒をねえ。」
「そ、しばらく八戒の面倒は悟浄に任せた。
そうそう何度もバックれられたらたまらんからな。」
「報酬を渡して?」
「まあな。あいつはそこん所ちゃんとしてやれば
面倒見はいい奴だ。」
面倒くせえ。
事の顛末が想像ついて尚更イライラした。
最近悟浄と八戒は仲良くしてるようだが
今日は八戒が天蓬の相手をしてる日。
天蓬がややこしいことをしてくれたに違いない。
「一応聞いてやるが、何の騒ぎだ?天蓬ならいねえぞ。」
悟浄が手を止めて俺を睨む。出会った時のような鋭い目つき。
「うるせえ。あのキチガイはどうでもいいんだよ!」
悟浄がこちらに向かってくる。
「・・・んのクソ餓鬼」
悟浄がバッドを力いっぱいブン回す。当たればそれなりだが
でかく動けばそれなりに隙も生まれるわけで
そこに容赦なく顔めがけて拳を叩き込む。
この状況で加減してやる程俺も機嫌が良い訳じゃ無い。
「げっほ・・・!」
悟浄はさらに振り回すがバッドは当たらない。
場数が違うんだよ。チンピラもどきが。
何発か入れたにもかかわらず立ってられるのは褒めてやるが。
とはいえ息は上がり、そろそろ限界だろう。
「そろそろやめとけ。
大方、八戒の事でお前に金渡したの、ばらされたんだろ。
なら尚更俺に当たるのは見当違いだぜ。
お前が行くのは八戒ん所だ。違うか?
これ以上は加減できねえから、分かったら失せ・・・」
「るせえ。元はてめえが悪いんだろ。
てめえがあいつ狂わして野放しにしてるからじゃねえか!」
頭に血が上った。
言い終わらないうちに回し蹴りが悟浄の胸に入って、
盛大に音を立てて倒れた。
悟浄は立ち上げれず咳き込みまくってる。
当然だ。加減しなかった。
できなかった。
起き上がりそうになった所を首を掴んで体重をかけて抑えつける。
息が上がってるところにこれだ。苦しいだろ。
自称長い足がバッタバッタと床を蹴る。
ボロボロで反撃する体力もあるまい。
「てめえにガタガタ言われる筋合いねえんだよ。
あいつが頭おかしいのはあいつの問題だ。
今後つまんねえ言いがかりつけて俺んところきたら殺すから。
今日は失せろ。」
と、手の力を緩めた瞬間だった。
「奴だと思って、しっかりしめろよ。クソ野郎。」
瞬間、頭が白くなって。
悟浄の髪を掴んで階段の上から放り投げた。
うめき声と派手な音を立てて転がり落ちてく。
部屋に戻ってボロボロの椅子にどっかり座った。
タバコに火をつける。
あの細くて白い首に手を伸ばして壊してしまいたい衝動。
あいつみたいな真っ直ぐな怒りが俺にあったら
俺たちはこんな風にならなかっただろうか。
胸糞わりい。
タバコをソファに押し付けて火を消した。