第12話(悟浄)

飲屋で酒を飲みながらいつもの賭博。
近くのカウンターには女二人が熱を持った目で俺を見てる。
ひとりは顔なじみで、一人は新顔。
「悟浄って、昔は近寄りがたくって、キレたら手付けらなかったのよ。」
顔なじみの方が知ったような事を言う。えーそうなのぉと、新顔。

確かにそんな時もあったっちゃあ、あった。
盗んで殴って奪わないと生きていけなかったし、
世の中全員自分の敵だと思ってたから、容赦も手加減もなし。
ちょっと変わったのは天蓬に会って、ウリの世界をしてからかな。
ああ、世界は意外と敵ばっかじゃねえんだなって。
金があれば対等になることもあるし、
盗んだり奪ったりしなくても生きていけるってことに気づいた。

「今じゃ信じられないでしょう?
昔はホントすごかったんだから。いろいろとね。」

と、含んだような言葉。
女の言動からするとさも俺と昔寝たみたいな言いっぷりだが
多分寝たんだろう。覚えてないだけで。
いちいち寝た女のことなんて覚えてない。
なんて言うと女どもは「酷い」「ありえない」とかピーピー騒ぐがあいつらだって人の事言えない。
この女みたいに誘うような粘っこい視線を俺に送ってても
「飲み屋で博打やってフラフラチャラチャラしてるチンピラもどきの女」
って設定の自分に酔ってるだけで、
実際俺の事なんざ見えてないんだから。

でも八戒は違う。ちゃんと俺を見てる。
帰れば「おかえりなさい」って出迎えてくれる。
その時の穏やかな笑顔。なんていうか、すげえ落ち着く。
抱きしめればぎゅっとしがみついてくる。
その熱の、心地よさ。

「なんだお前。ニヤニヤして気持ちワリィ。」
「ん?イヤなんでもねぇ。」
賭博相手のヤローにツッこまれて気づいた。
八戒の事考えてて顔に出るとは。末期だなこりゃ。
なんだか無性に会いたくなってきた。時計を見る。
そろそろ八戒の仕事が終わる頃。
帰りに落ち合って飲みにでも行こうかな。
今日の相手は天蓬って言ってたからなんか心配で。
変なプレイ強要されてねえらだろうな。

今まで意地の悪い人間なんざ死ぬほど見てきたが
天蓬はそれとも違うのにそれよりも数倍も厄介なところがあるから。
まず貞操観念てものがない。頭のネジが飛んでるって感じか?
なんて表現したらいいのか分からないけど。
ただ一つ言えるのは天蓬の全ての行動は、全部捲簾に繋がってる、ってことぐらいか。

なんて考えてたら携帯が鳴った。

相手は、天蓬。
「ワリ、電話出るわ。」
普段は賭博中に電話に出ることはないが、無性に気になって、出た。
「もしもし、ごじょう?」
天蓬の声。いかにも事後っぽく艶っぽいのが今は無性にイラっとする。
「あ?なんの用?」

「はっかい、すっごくイイですね。直情型で。」
「あ?直情型?」
「そ、キレやすいってことです。」
あの八戒が?空き缶を灰皿代わりにすると怒るけど。
キレるなんて程じゃない。
「お前、八戒に何した?」
「別に何も。ちょっとつついただけで。」
電話口の天蓬はふふふ、と笑った。ますますイライラする。
「だから何したって言ってんだろうがよ!」
思わず大声になって、店の人間が一斉にこっちを見る。

「本当のこと言っただけですよ。
悟浄の親切を真に受けすぎるのは、悟浄に迷惑だって。」
「おま、何言って・・・」
俺の声を遮って天蓬が続ける。
「悟浄は捲簾からお金貰ってるんだからって。
だから勘違いしちゃダメですよって。」

こいつ、何言ってんの。
頭の中が真っ白になった。
天蓬はこっちが返事しようがしまいがつらつら続ける。

「もしもし、ごじょう?聞いてます?
もしかして八戒のこと、本気でした?」

「ならダメですよ。捲簾からお金受け取っちゃ・・・。
八戒が生きてた世界はそういう世界じゃあないんです。」

「ああ、ひょっとして住む世界が違うって、こういうことを言うのかもしれ」

天蓬が言い終わる前に、走り出してた。

「ちょ・・・悟浄それ店用の護身用バットだってば・・・!
そんなのどーすんの!
ちょっと悟浄、待ってって!」
店のマスターが後ろでなにか叫んでるが関係ない。

とにかく走った。

 

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