番外編4 天蓬編

「ねえ。捲簾常務」
「んー?」
ビアガーデンを出て、2件目のバー。
店内は広く、いくつものテーブル席やボックス席がある。
そのボックス席のひとつで捲簾と2人きり。
「遅いですねあの2人。」
「ああ?さっき変なの食ったのかな。」

さも興味なさそうにウイスキーをあおる捲簾に、あきれる。
「はあ?あの2人が連れ立ってトイレですよ?
やることは一つじゃあないですか。」
と言ったら捲簾が顔をしかめた。
「店のトイレで、しかも上司と一緒に飲みに来てるのにやるかあ?
お前欲求不満でどうかしてるんじゃねえのか?」

そのもの言いもどうかと。
欲求不満。
確かにそうかもしれないけど、こんなに残業続きで
そんなことする気力も体力もない。

まずはゆっくり休みたい。捲簾常務の家で。
欲求不満は貴方でしょ。という言葉を飲みこんで
「今日、行っていいんですよね。」
と、自分史上一番いい笑顔を作って念を押した。

捲簾常務のマンションは快適だ。
高層マンションの一室。夜は静かだし昼間の日当りはいい。
興味深い本も揃っている(今日は泊まり用に何冊か持って来たけど)。
座りご心地のいいふかふかのソファで本を読んで
うたたねしそうになる瞬間が最高で。
そしてこの男は料理好きで世話好きであるから、食事もちゃんと出て来るし。

「おう、いいぞー」
捲簾常務がにっこり笑う。会社では見せないような、甘くて優しい笑顔。
もちろん捲簾常務の家に泊まるのはただじゃあ無いわけで。
もちろんそれが嫌ってわけじゃないですけど、ここまで分かりやすいとは。
うーん常務とはいえど、男ですねえ。単純だなあ。
と思ってたけど。
「てか俺んちは漫喫じゃねえからな?」
「何言ってるんですか人聞きの悪い。」
さらに良い笑顔を作って返した。
しまったバレてたか。

そうこうしてたら悟浄と八戒が戻って来た。
八戒はいつもと変わらない品のよい笑顔を作って
「すみません。トイレが混んでて・・・」
と言ってたけど、『トイレの中でやらしいことしてた』説が
頭の中で確定してる僕にとっては、よくしれっと言えるなあ、
とひとり関心していた。

そんなこんなでまた飲みが再開される。
悟浄は捲簾常務と似たようなざっくばらんな性格だから
捲簾常務と話が合って、そこにちょこちょこ八戒と僕とで
口を挟んでいくのが4人で飲む時のパターン。
仕事の話から趣味の話まで、話題は様々で、
話に夢中になっているうちに気づけば何時間も経過している事が多い。

しかし今日は違った。
クライアントから電話が入り、捲簾常務が一度席を外す。
戻って来た時には眉間に皺がよっていた。
「悪いけど俺と天蓬部長、今から会社に戻るから、
お前らこれで飲んでろ。」
と気前良くテーブルに札をペシ、と置いた。
「え!?これから!?」
驚く悟浄。そうだ。今の時刻は23時手前だというのに。

聞けば会社一のビッククライアントからの至急の依頼で、
元々送っていた販促資料にデータを追加して送り直してほしい。
と依頼があったらしい。
その資料を作ったのは、僕なわけで。
かくして、土曜の23時、僕は捲簾常務と会社へ戻る羽目になった。

当然、会社には誰もいなかった。オフィスの証明をつけて
パソコンを起動させる。
話を聞くと、資料の追加修正は30分くらいで済みそうだった。
できあがれば、営業であるところの捲簾常務が
内容を確認して、クライアントにメールで送って終わりだ。
良かった。
早く終わらせて、快適な部屋(捲簾常務宅)でゆっくりしたい。
カチカチと倍速でマウスを操作する。

捲簾は僕のすぐ前、永繕の席に座ってニヤニヤとこちらを見てる。
「何です?」
パソコンから目を離さずに言った。
「別に。そうやって仕事してる所、初めて見るなと思って。」
そういえばそうか。この人は普段出かけてるか常務室にいるかだから。
なんて事を頭の片隅で思いながら、淡々と作業を続ける。

しばらくして。
「終わりましたー。今資料をメールで送りましたから。」
「おーさんきゅ。確認する。」
捲簾常務は資料をふむふむ言いながら確認すると
あらかじめ作成していたメールに添付して送信。
僕はパソコンの電源を落として本を読んで待つ事にした。
あともう少しでくつろげる。あともう少し。

「はい。じゃあご確認の程、宜しくお願いします。
はい・・・では失礼します。・・・よっし終わった!」

捲簾常務がそう言ったので顔を上げた。
その時、キスが。
これで本当に仕事も一段落したし。
お疲れさま的な、と思ってたけど。
唇を吸われて舌がぬるりと入って来たあたりで
「ん?」と思ったけど遅かった。
強引に腕をつかまれて椅子から立ち上がる。
そうして捲簾常務の腕の中に収まった時には
ぴちゃ、と水音が漏れるくらい、侵入を許していた。

「ん・・・」
捲簾常務が飲んでいたウイスキーの香りが
僕の口の中にながれこむ。
舌が絡まって苦しい。抗議しようにも、くぐもった声が漏れただけで終わる。
一方捲簾常務はやめる気配もなく
唇を貪りつつ、慌ただしく、強く、手を僕の体に這わせている。
このままじゃ、まずい。
「ちょ・・・」
とにかく帰って部屋で。と言おうとしたら先に言われた。
「悪い。今日は宿代前払いで。」

「・・・っ!?」
にやりとサディスティックに笑う顔。
前払いということは。
床に押し倒されても激しい乱暴なキスは泊まる気配もない。
その手が、太ももを舌から上へと這い上がり、そこを撫でるから。
びくりと体が反応するのが、止められなかった。
「んっ・・・ぅ・・・・っここで?」
「・・・なんならあいつらみたいに
トイレの方がいいか?」
僕の上で笑う。なんてやらしい顔。

 

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