番外編4 八戒編

何枚も、何枚ものスケジュール表を机の上に広げる。
大至急案件、トラブル発生、超タイトなスケジュール、低予算、超難度の案件揃い。
どこかから火が出そうなら先回りして根回しして火の元は消す。
火が噴けば他の仕事の山を差し置いて速効で火消し。
極限まで神経をすり減らして。
予定通り、余裕進行、なんて言葉は無い。

それらの仕事を。
終わったものから赤ペンで派手に「済」を書き込んでいく。
仕事をしていて最高に気持ちいい瞬間。

僕はひとりほくそ笑んだ。終わりは見えた。
あとは全て捲簾常務と悟浄が校了を貰ってこれば今日はおしまい。
時刻はなんと17時。
この時間で終わりが見えるなんて。
と言っても、サービス出勤の土曜日だけど。
ここ2,3ヶ月、休み返上で働いて働いて、それが今日で一区切りつく。
「だたいまー」
「戻りましたぁー」
まばらに人がいる(皆サービス出勤)オフィスに捲簾常務と悟浄の声が響いた。

「ほらよ校了印!」
捲簾常務が僕の机の上に紙の束をどさどさ置いて行く。悟浄も。
クライアントからOKが出た原稿達。
「よーし、入校は月曜日でも良いんだろ、飲みに行くぞ!」
そう。今日は仕事が一段落ついたため、捲簾常務の(強引な)お誘いで
天蓬と悟浄と僕とで飲みに行くことになっていた。
「あと5分で出るからなー」
そう言って常務室に向かう捲簾常務。
僕はあわてて受け取った原稿の束を机の中に突っ込む。
悟浄もいそいそとiPad(商談時に使う)を引き出しの中に突っ込んで、PCの電源を落として。
天蓬は、あれもう社内にいない。急がなくては。
いざ。むかうはビアガーデン。

そして。
「お疲れー!」
「お疲れ様でーす。」×3
大ジョッキがカチリカチリと音を立てる。
4人とも黙って一気にあおる。
冷たいビールが、体にしみこんでいく。
これも、仕事から解放された後の、最高の瞬間。

ああ、なんて贅沢なんだろう。
花火が上がる。遮るものもなく、降ってくるみたいに。
ここを予約したのは捲簾常務だった。
最初ビアガーデンと聞いた時は「捲簾常務がビアガーデン!?」
という感じだったけど(どうしても涼しい部屋で高いお酒を飲んでるイメージが。)
なるほど花火がすごい。こんな近くで見た事なんて無い。
この辺で毎年恒例でやってる花火大会。その一番の特等席なのだ。

捲簾常務と天蓬に至っては椅子をぐるりと花火の方に向けて
見入っている。特等席の中の特等席。最前列だ。
話は中断。しばし花火鑑賞。
周りを見回すと、花火があがるたびに歓声が上がって
みんなも花火に見入ってる。

そんな最中に。
ふいに、悟浄の手が僕の手に重ねられて
悟浄の顔を見たら、軽くキスされた。
皆花火に釘付けといえど、公衆の面前。
絶対誰かに見られてる。

何するんですか。
混乱と恥ずかしさで、思わず声を荒げそうになったのを
寸でで我に帰って堪えた。

まだジョッキ1杯もあけてないのに酔ったか。
それとも激務続きで気でも狂ったか。
「何するんです。」
と、へらへらしてる悟浄を睨みつける。
ちらりと捲簾常務達を見ると花火の方にまるっきり体を向けていて
こちらに気づいてない様だからよかったものの。
「別に?」
わざとだ。悟浄はこうやってたまに僕をおちょくる。
「今度やったら殺しますよ。」
「はいはい。」
しかし。言葉とは裏腹に、悟浄の手が、僕の手を通り越して
太ももを触って来て。さらさらと撫でられて。

悟浄を睨むのも注意するのも容易いのに
その手は払えない。
悟浄の細くて長い、中指がそこに触りそうで、触らない。
なんて焦れったい。
だからその手は払えない。

仕事から解放された後の、最高の瞬間その2。
ジョッキ1杯もあけてないのに酔ってるのは僕だ。
激務続きで気が狂ってるのも、きっと僕だ。

 

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