番外編(八戒)
「悟浄・・・やめてもらえませんかね。」
僕はため息まじりに言った。
「しょーがねえだろ、趣味みたいなもんなんだから。諦めろって。」
諦めろって言われても。
思い切って本音をぶつけてみたものの、返ってきた言葉がこれだ。
つき合う時から分かっていたことだが、悟浄は女性の扱いがうまいものだからやたらともてる。
合コンに誘われるのもしょっちゅう。で、本人もその手の集まりが好きだから、誘われれば必ず顔を出す。
ちょっと愛想を振りまけば喜んで女性がついてくる。
僕だって女みたいに目くじら立てたかないですがね。
「お前は好きだけど。他の女はただの遊びだって。相手もその辺分かってるし。」
「本当ですかねえ。」
あなたは今にも蝶々みたいにヒラヒラ飛んでいきそうで。
まあその身軽さが好きでもあるんですけど。
最初の頃はそれでもこの人の一番は自分だという自負があったし目をつぶってたけど。
今はもううっとうしいんですよ。いちいち自分の心が乱れるのが。自分の嫉妬心が。
おもしろくないことは続くもので。
天蓬が倒れた日の2日後だったか。
喫煙スペースで休憩して、さて仕事に戻るかと立ち上がったその時。
天蓬がいそいそと目の前を通り過ぎた。
鞄を持っていたから、あれ、早退でもするのかな。と思って呼び止めたら。
「ああ、今から△△市に出張です。常務に会いに行ってきます。」
じょ、常務に会いに??
ニコ。と微笑んだその顔は何か企んでいそうな顔で。
「そういえば一昨日は迷惑かけましたね。
ああ体の方は大丈夫ですよ。ありがとう。それじゃ。」
と言って(むしろ言いながら)スタスタと会社を出て行った。
経費削減にうるさい会社が営業でもなんでもない天蓬の出張を簡単に決済するわけない。
どんな手を使ったか知らないけど。そこまでして追いかけたい人なんですかね。常務は。
自分の興味のないことには一切動こうとしない天蓬。
自分が何をやっても振り向かせることができなかった天蓬。
なんだか一人取り残された気分。
こんな時は・・・と。僕は携帯電話を取り出し、久々にある番号に電話をかけた。
体の関係だけの彼。相手も今空いてるらしく、いつものホテルで会うことになった。
悟浄は今日も例によって合コンみたいですしね。お互い様ってことで。
悪いことは続くもので。
電話をした相手とは、いつもホテルの部屋で待ち合わせていたが
その日に限って、たまたまホテルの近くでばったり会ったので
じゃあ行きますか、と二人でホテルに入ろうとしたその時。
「あ、八戒。」
悟浄とばったり会った。
僕は固まった。えーと。どうしましょう・・・。
合コンの帰りらしい悟浄は、僕と一緒にホテルに入ろうとした相手とを交互に見て
皮肉めいた表情でふっと笑った。
「八戒。ちょっと来い。」と言うと僕の手首を痛いくらいぎゅっとつかんで、
そのままホテルに入っていった。
僕は悟浄に引きずられるようにして一緒にホテルに入る。
さっきまで一緒にホテルに入ろうとして彼が、ポカンとした顔でこっちを見ていた。
部屋に入ると悟浄はドアに背をもたれて腕組みした。
「八戒さん。どーゆーこと。」
『あなたが遊んでるから、僕も遊ぼうかと思って』なんて
けんか腰で言っても良かったかもしれないのに
『妻子ありの男性と今までズルズル体だけの付き合いをしてました。』
という後ろめたい事実が僕をどもらせた。
(因に悟浄とつき合ってからは連絡は取ってなかったけど。)
「えぇと・・・。」
ビジネスでもそうだけど、一瞬でも戸惑いと見せたら終わり。
要するに僕は終わり。
悟浄は酔っているのかニヤニヤと笑いながら話す。
それが逆にかなり怒っているようにも見えて、僕は萎縮してしまう。
「・・・じゃあセフレなんだ。その人。」
「セフレ・・・というか。」
「セフレでしょお。そういうのセフレって言うの。それとも好きなの?」
「いえ・・・。そういう気持ちは無いです。」
「ふーん。にしても今までずっとその人とセフレとしてつき合ってわけだ。
なんか、八戒がそうことするのって、意外。」
「あなたとつき合ってからは会ってないです。」
「今日会ったじゃん。浮気だ。」
「あなただって遊んでるじゃないですか。」
「俺は飲んでお話してるだけだから。お前は今からやろうとしてたわけでしょお?」
「それは・・・」
「ね、俺じゃない別の男に抱かれようとしてたわけでしょお?」
なんのいい訳も通用しない。
軽い気持ちで遊ぼうとした自分。
あの人の奥さんとと子供を傷付けながら、自分の快楽のためにそれを無視してきた自分。
今まで都合良く見てみぬふりしてきた自分が悟浄によってさらけ出されてしまう。
逃れられない。プライドも肩書きも経験も何もかも無意味で丸裸にされた気分。
実際に丸裸にされるよりもずっとずっと恥ずかしい。
まっすぐ僕を見つめる悟浄の視線が痛いような、でもひょっとしたら心地良いような、妙な気分。
ふいに悟浄が僕に迫り寄って来た。
「てゆーか今どういう状況か分かってる?結構修羅場じゃない?」
鼻先がつくかつかないかの距離。もう何も隠せない。全部見透かされてしまう。
「でもさ八戒、俺からせめられて興奮してるでしょ。」
「あっ・・・うぅ!」
いきなりズボンを脱がされたと思ったら下着の中に悟浄の手が入ってきた。
「ほおら、下着の中ぐっしょぐしょ。どういうこと?」
「やぁっ・・・!おねが・・・やめ・・・あぁん・・・!」
くちゅ、くちゅ、と今までないくらい乱暴に扱かれて、立っていられず悟浄に縋り付く。
悟浄はそんな僕を見ると、に、と笑って言った。
「服、全部脱いでみ。」
言葉や表情の感じからすると、悟浄はそんなに怒ってなさそうだったので少しほっとした。
その証拠に僕が服を脱いでいくのをうすく笑いながらじっと眺めている。
明かりがついたままの部屋で僕は服を脱ぎ始めた。
悟浄とする時は恥ずかしくていつも電気を消してもらってたのに
今日は何も言えず悟浄の言う通りにするしかなかった。
僕が服を全部脱いで悟浄と向き合うと悟浄の手が焦れったく僕の体をなで回す。
首から胸、お腹から足の付け根、太ももへと。
「あ・・・はぁ・・・あぁ・・・」
「そんな息きらして。ただこうして触ってるだけなのにねえ?
俺以外の奴とやるときも、そんなやらしい顔するわけ?」
「ん・・・いいえ・・・悟浄がするのが一番きもちいい・・・。」
「ふうん」
さっきは強く扱いておいて、今度は太ももの内側を何度も撫でるだけで全然触りもしてくれない。
その焦れったさが自分の置かれた状況を忘却させ、理性も奪っていく。
「だから・・・お願いです。もっと、きもちいいことして・・・。」
もっと刺激が欲しい一心で懇願すると、僕が自分の術中にはまったのを満足したかのように悟浄は笑って言った。
「はいはい。じゃあそこのテーブルに手ついて。」
「んんっ・・・!あぁっ・・・はぁっ・・・」
悟浄の手が僕自身に絡み心地良く上下に動くと、僕はたまらず背をしならせた。
「悟浄の・・・挿れてくださ・・・。」
「いいけど。じゃあもう浮気しないって約束する?」
僕はこくこくと首を縦に振った。「やくそく・・・します。あぁんっ!」
にゅる!と一気に指が2本入って来た。
「じゃあさ、俺の合コン通いも許してくれる?」
「はい・・・ええ!?何でです!?」
「じゃあ今日はこれでオシマイにするけどいいの?」
「あっ・・・それは・・・だめです・・・
でも悟浄だってこのままで終われないでしょう・・・?」
悟浄のそこを撫でると、ぞくぞくするくらい固く熱く勃ちあがっている。
「べっつに。俺はいいよー。」
「・・・!?」驚いて振り向くと悟浄が意地悪そうに笑って言った。
「八戒の口にガンガン突っ込んでぶっかけてやるから。」
「それは・・・!」
「どうする?八戒?俺の場合別にセックスするわけじゃないしさ。
飲んでおしゃべりするだけなんだからいいじゃん。」
この男はなんで狡いんだろう。自業自得なんですけど。
「分かりました・・・許します。だから早く挿れてください・・・。もう我慢できない。」
そう言い終わるや否や熱い肉塊が僕の中に打ち込まれ、内壁を強く擦る。
「はぁ・・・ん!・・・あっ・・・あっ・・・んっ!」
それまでさんざん焦らされた僕は、悟浄の強い律動にたまらず達してしまった。
「八戒って、さ・・・・」
「なんです?」
事が終わってぼんやりとベッドに寝そべっていると、悟浄が話しかけて来た。
「すげえMだよな。」
「!?いきなり何言ってるんですか。そんなこと・・・。」
「だってさ、さっき口に突っ込んでぶっかけてやるって言ったらさ、
お前のここ、すっごいひくひくして俺の指締め付けてたよ。
そういうのも、実はしてほしいんでしょ?」
「・・・っ!」僕は赤面した。
「じゃ今度な。」
悟浄が笑いながら言った。
なんでも見透かされている。もう悟浄に嘘はつけない。
僕は悟浄に弱みを握られてしまったの・・・かも。