第4話(八戒)

『CAROL』の突然のプレゼン話がくる2日前のこと。
僕は2日後に修羅場を迎えることなんでつゆ知らず、三蔵と飲んでいた。

休日出勤の土曜日20時。そろそろ帰りますか、と思ってたところに
同じく休日出勤してた三蔵に、飲みに誘われた。
会社の近くの居酒屋で、生中ジョッキで軽く乾杯。

「だいたいその凡ミスは制作部の杉村のミスだろ。」
「僕の監督不行き届きです。」
「だからって部長のお前が制作部の全案件把握して
管理するなんて物量的に無理だろ。死ぬぞお前。」
「僕が全案件管理するのは今だけですよ。
後々は個々に自分の案件にある程度責任持ってもらわないと。」
「それがいいな。制作畑の連中ってのはどうも仕事が甘い。
あとで営業が確認してくれる。なんて思ってるから凡ミスやらかすんだ。」
「その前に営業部をなんとかしてくださいよ。
営業する前に少しはデザインのこと勉強してください。ブレストもできやしない。
そのくせクライアントと一緒になってデザイン批判ですか。
僕はもっとこう・・・営業と連携したいんですけど。」

疲れてるから酔いが回るのが早いんですかね。
不満がぼろぼろ出てしまう。
ああ今日は厄日かな、と思ったのがいつのまにか厄週になった。
と思ったら厄月になったわけで、
いつまでこの負の連鎖が続くのか全く見当もつかない。

最初は何から始まったんでしたっけ。
凡ミスで文字間違ってチラシが刷りなおしになって
制作部全精力を費やしたプレゼンがポシャって
デザイン気に入らないだの客先からクレーム来て
営業と一緒に謝りに行って3時間くらいねちねち怒られて。
それに対して営業部の連中からイヤミと責任の擦り付け攻撃。
そして天蓬の一件。

「まあお前に対するやっかみもあんだろ。
くだらねえ事言う奴には構うな。うまくかわしとけ。」
部長職に就いたとたん、実務以上に管理職としての仕事も増えた。
プラス、社内の風当たりも強い。
「ああ、主任の頃は良かったなあ。」

「そういやお前、最近まともに飯食ったのいつだ?
いつも顔色悪いし。痩せただろ。」
「やっぱり痩せましたかねえ。最近時間なくて昼ご飯食べてないから。」
朝はギリギリまで寝たいから食べないし(前はちゃんと自炊して、しっかり食べてたんですけど)
家に帰るとシャワー浴びてすぐ寝ちゃうから何も食べないし。
あれ、今週まともにご飯食べてない・・・かも。
「あ、そういえば昨日の夜に悟空が肉まんくれましたね。」
三蔵が盛大にため息をついた。

えーとその前に食べたのは。
2.3日前に悟浄がくれたコーンポタージュですかね。食べ物じゃないけど。
夜遅い時間に飲まず食わずで仕事してる時に
コーンポタージュって、本当にうれしい。
一緒に仕事をして思ったけど、悟浄は人の状態を察知するのがうまい。
元デザイナーで営業経験は無いみたいですけど
そこそこうまくやっていけるのは、ああいう優しい性格だからですかね。
最初はどこのチンピラかと思いましたけど。
悟浄は優しい。悟浄の優しさは心地いい。

「気持ち悪ぃ。」
三蔵がふいにつぶやいたので我に返った。
「お前、なにニヤニヤしてんだよ。」
あれ、ニヤニヤ・・・してましたかね??

 

その翌日の日曜日は、午後から会社に行って仕事片付けて、
これで来週から楽になるかなと思ったら
月曜日は月曜日で午前中の会議が長引いて
ああ今日も帰れるのは24時過ぎますかね、なんて考えてた時に
印刷所の飛び込み営業が来たから相手して・・・
悟浄から『CAROL』の話が来た時にはもう目眩というか爆発というか破裂しそうというか
そしたらいきなり

悟浄に抱きしめられた。

 

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