第3話(悟浄)

大変だ。
出先から戻ると一服しないで速攻で自分のデスクに戻った。
隣の席の三蔵に話しかける。
「ヘアサロンの『CAROL』ってクライアントあったろ。」
「ああ。」
こっちも見ずに三蔵は答える。
「あそこにデザイン提案することになった。
しかも締め切り1週間後。」

『CAROL』は三蔵から引き継いだクライアントのひとつ。
俺が営業担当で、八戒が制作担当。
社内のクライアントの中では中規模のクライアントだが
新人の俺が持ってるクライアントの中では一番でかい。
月に3誌、雑誌に広告を載せているが
その中でも『Gift』には見開き2ページで大きく広告を出してる。
その『Gift』の反響が落ちた、ということで今回広告の提案を依頼されたが
今は『Gift』の締め切り1週間前。今からデザイン提案なんて無謀というか
スケジュール的にかなりキツい。

「ああ?なんだと?
お前そんな無茶振りを素直に受けて来たのか?」
眉間の皺を一層深くして、やっとこっち見た。
「こっちは折衷案出してなんとか回避すべく努力したけどな、
オーナーが直々に出て来たあげく『三蔵さんはこのくらいのスケジュールでもやってくれたけどなあ』
なんて言われたら断れねえだろ!」
「そんなもんハッタリだな。
『CAROL』でこんなスケジュールでやったことなんざねえよ。」
舌打ちした。調子いい事言いやがってあのオーナーめ。でもまあそれでもやるっきゃないわけで。
「とにかく早々に八戒部長と打ち合わせして、方向性決めるわ。」
「一応、捲簾常務にも報告しとけよ。」
「りょーかい。」
この男はなんだかんだ言いながら面倒見は良い。

捲簾常務には一応報告しておいた。
「ほー頑張れよ新人。やばい時はまた報告してくれ。」
ってなもんでいつも通り軽いノリだったが、今日は目が笑ってなかった。
この男は会社のナンバー2であるにもかかわらず気さくだし、
まさに頼れる兄貴分タイプだが、たまーに機嫌が悪い時がある。
まあ営業の責任者だし。色々あるんだろうよ。
つーか俺が『CAROL』つっただけで
「ああ、あのヘアサロンね。年間で○○万くらい貰ってる所か。
今月の営業目標□□万だったよな。このプレゼン、モノにすりゃあ
□□万なんて余裕だろ〜。スケジュールきついだろうけど、決めろよ。」
なんて言ってきて、社内で何十ってクライアントあるんですけど
しかも中堅のクライアントの毎月の営業目標まで把握してるんかい!
ってツッコミたかった。さすがは営業部責任者。

制作部のシマに行ったら、八戒はいなかった。
隣の席の悟空に聞いてみると
「なんか印刷所の飛び込み営業の人の相手してるみたい。」だと?
そんなもん超多忙な八戒がわざわざ行く事ねえじゃん。
「抱え込みすぎなんだよな。あいつ。」
「元々そういう性格なんだけどね。
最近クレームやらトラブル続きでもっと拍車かかっちゃってさ。
悟浄言ってよ。無理しないでって。」
「なんで俺?」つーか今からさらに無理させようとしてるし。
「八戒部長さ、悟浄と話してる時はピリピリしてない気するから。」
そおかあ?なんて首を傾げてるところに八戒が戻ってきた。

ミーティングルームでざっと『CAROL』の件を話すと、
八戒は三蔵ばりに眉間に皺をよせた。
「じゃあ・・・提案の格子は、明日の朝までに僕が作ります。
明日悟浄が朝イチで確認できるようにしときますから。」
明日の朝までって、いつまで仕事する気?
「じゃあこっちは俺が・・・」
「じゃあそれも明日朝までに僕やっときます。」
あのなあ。
「つーか一人でやろうとすんなよ。
俺も一緒に提案内容考えるって。担当営業なんだから。」
「こんなスケジュール短いんじゃ、打ち合わせして
ブレストしたりなんだりするより、ひとりでやった方が速いですって。」
「そんなの本当できんのか!?つーか忙しいなら同じ部門のやつにも頼めよ。
みんなでやった方が絶対良いって!」
「頼めませんよ。皆忙しいし。あなたの制作担当僕だし。」
そんなの言い訳だろ。何ムキになってんだよ。
「なんでそんな根つめんだよ。ちょ・・・資料貸せよ。俺にできる仕事あったら回せ。」
「無いですよそんなの。あーもう打ち合わせ始めてから10分経ってる!
ていうかここで言い合いしてるだけ時間がもったいないですって!」
後半はもう、痛々しいくらい声を荒げて言ってる。ヒステリー寸前じゃねえか。
そう言ってミーティングルームのドアノブに手を掛けようとするから
その手掴んで強引に引き寄せて

ぎゅっと抱きしめた。

 

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