第4話(捲簾)

「ひでえ事すんな。」
久方ぶりに自分の言葉が出てきた。

最中にちらっと見えた痕。
ことの終わりに、何気なく服をさらに捲り上げてみると体には痣と噛み痕。
袖口から覗く痣は抵抗した時にできるやつ。ってことは合意の上のプレイじゃないってこと。
顔を背けているせいで、タートルネックを着ていても見えてしまう、首を絞められた痕。

上級神のお気に入り、娼夫、とかいうヘドが出る陰口が頭をよぎった。
年の割に異例の昇級をすればお偉方と寝てるんだろとか、子供が好きと言えばお稚児趣味と陰口を叩くクズはどこにでもいるから気にもしなかったが。

これは。

こんなんでしれっと任務して、しれっと人に力になるとかとか言うわけ?
なんで?

死にたくならねえの?お前は。

天界には死がない。
正確には肉体が壊れない限り永遠に生きていけるが、壊れれば死ぬ。

壊れにくさで言ったら下界の人間と比べりゃ段違いだが、壊れる時は壊れる。
病死もあるし、事故死もある。他殺もあるっちゃある。

あと自殺。

昔世話になった元上官が死んだ。
妖怪との闘い方も軍の中での振る舞いも夜の遊び方も全部教えてくれた人だ。

おそらく自殺。

いつの頃からか家に閉じこもるようになって、昔はちょこちょこ会いに行ってたけど、この病気は何がきっかけで良くなるかも悪くなるかも分からないからもう来ないでくれと家族に言われたのが数年前。
ついこないだ同期から死んだと聞かされた。葬式はとっくに終わってた。

一体全体、何がどうしてこうなった。
どうして何もできなかった。しなかった。

そんなことを延々考えていたら、答えが出ない代わりに飯の味がしなくなって、何をしても何も感じなくなっていった。
まずいと思った時には時すでに遅し。
任務中、妖怪を目の前にして動けなる有様だった。

適当に言い訳しておいたが、うちの副官は空気も読まずに突っ込んでくるような奴で。
それどころじゃないんだよ。お前に構ってる暇も余裕もない。
なのに話が変な方向に行って。こうなったら親切に乗っかってほいほいだき捨てる最低な野郎だとでも思ってくれ、と思ってたのに。

ようやく、
目が覚めた。
目の前の衝撃
ようやく地に足がついた。

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