第2話(天蓬)

そして今日。
捲簾大将が竜王敖潤に始末書を提出し、その場で処分が言い渡された。
捲簾大将、減俸1ヶ月。
僕、口頭にて厳重注意。

その帰り。我慢しきれず廊下を歩きながら問いただす。

「で、本当は何があったんです?
まさか始末書に書かれてる通り妖怪相手に怯んだわけじゃないですよね?
天下の捲簾大将殿が。此の期に及んで。」
「るせえな!始末書の通りだよ。昨日も言っただろ。
思いの外妖怪がでかくて・・・柄にもなくビビったんだよ。」
「納得できかねますね。」
「お前が納得できるかできねえかなんぞ、知ったことか!」
一層ぶっきらぼうに、目には鋭いものを宿しながら言った。
まだ短い付き合いだが分かる。らしくないにも程がある。

真正面から問いただしても答えてくれそうにない。
だから昨日直感したことをストレートに聞いてみた。

「死のうと思ったんでしょ。」

「どこぞの副官の部屋の掃除が忙しくて忙しくて。そら死にたくもなるわ。」
冗談でかわそうとするのを無視して続けた。
「自殺は残った人間を苦しませるから。
うっかり妖怪に怯んだ事にして殉職。任務中の事故。
この世界からフッと居なくなれる。
周りの人間は悲しむけど、自殺程じゃあないなんて、考えてません?」

捲簾大将が突然ピタリと歩みを止めて、いきなり胸ぐらを掴んでくる。
「ちょ・・・なにするんです!」
そのまま人気のない通路に連れて来られ、胸ぐら掴まれたまま壁に押し付けられた。

「くだらねえ事グダグダ言ってんじゃねえ。
俺が怯んだっつってんだから、そうなんだよ。
いちいち踏み込んでくんな。」

鼻先数センチの距離で、刺すような目で睨みつけられる。
あぁ、凄まれてこんなに気後れしたのなんて子供の時以来だ。

余程余裕がないのだろう。かわす方法などいくらでもあるだろうに。
図星なんだ。こんな鋭い目。

獣の目だ。
今はただ、土砂降りの雨に打たれて身を芯まで冷やし凍える獣といったところか。
この獣を哀れな姿のままにしておくわけにはいけない。
人にあれこれ言って焼肉奢らせたくせに。

「分かりました。
いいですよ。怯んだ事にしても。
何も聞きません。
でも、僕に何かできませんか?」

「あ?」
「何かあるんだったら力になりますって言ってるんです。」
「そんな軽はずみに力になるとか言うもんじゃねえよ。」
「軽はずみになんて言ってません。なんでも良いですよ。力になれるなら。」

捲簾大将は凄んだまま。
僕も一歩も引かない。
近距離からの睨みを一心に受けて、捲簾大将の目を見据える。

捲簾大将がハッと嘲笑し顔がゆがんだ。
「『なんでも』なんざ、言うねぇ。天蓬元帥閣下。
じゃあ抱かせろっつったら、抱かせてくれんのかアンタは。」
「・・・・」
「ほらな。できもしないのに『なんでも』なんざ言うもんじゃないぜ。
軽いんだよ。笑うぜ。」

「いいですよ。」
「あ?」

「抱きたいなら。どうぞ。」

さも大した事でないように言った。
だって、本当に大した事ではないから。

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