第3話(天蓬)
僕は一部の高官から娼夫と呼ばれてる。
出世欲が強すぎた養父と女顔で運のない養子。
養父は何年も前に酔って階段から落ちて死んだが、出世の為の接待先はしぶとくご存命で、未だに縁も切れないし、困った通り名も消えない。
相手は自分の力では断りようもない程の階級や上級神達。政治畑の人間と寝ても軍属の自分には何の得もないというのにだ。
精神の衛生を保つには、貞操観念というものをごっそり無くす他無かったのだ。
そんなこんなで、必要とあれば自分の身体をさくっと利用してしまう今日この頃。
いいじゃないか。
セックスの快楽だって、副官と寝た気まずさだって、うっかり死にたくなる程の何かに上塗りできるのなら。
「抱きたいなら。どうぞ。」
「言ったな。」
逆ギレすることもかわすこともしなくなった捲簾大将は無表情になった。
これが無理をしてない素の今の彼ならそれでいい。
僕の部屋。
部屋に入ったところで、いきなりドアに押付けられる。
唇を割って舌が入り込んできて、頭がビリビリした。
「ふ・・・ぁ・・・ちょ、ちょっと、待って。」
「んだよ。」
捲簾大将は無表情のままだ。
「キスはやめません?」
いつもは、することだけしてそれで終わりだ。
嫌がらせ的に、あれこれされることもあるけど。
前戯的なものはされない。ご老体もいるし。
だから、そういうのは要らない、という提案のつもりだったのだが。
「『どうぞ』っつったんだから好きにさせろよ。
ごちゃごちゃ言ってねえで、どーせなんだから楽しめ。」
捲簾大将は相変わらずの無表情でそう言うとキスを再開した。
楽しむ・・・?セックスを?どうやって?
そういう発想は無かった。
動揺しているうちに舌が耳につっこまれて思考が飛ぶ。
耳の淵から耳たぶへと、じゅうっと音を立てながらしゃぶられて、捲簾大将の熱い吐息がかかる。
捲簾大将が耳フェチなのか、それとも僕への嫌がらせなのか。
一般的なセックスではそうするのか、いまいち分からない。
慣れないことはされるもんじゃない。
されるがままに嬲られて、息が上がっていく。熱が、集まっていく。
時折その部分に彼の服がさらりと撫でていくだけで声が出てしまいそうになる。
身体はどうしてくれてもいいが、
仕事仲間相手に変な声聞かれるのは避けたい。
ダメだ。止めないと。
でないと、もう。
「ちょっ・・・」
一旦止めてもらおう、と手を肩に当て体を引き離そうとしたら、ぎゅっと腰を抱かれた。
逃げられないように。
そして、捲簾大将の熱が押し付けられる。
ガチガチのそれ。
欲しかったものの存在を感じて、一気に濡れた。
「っあ・・・!」
ついに出てしまった。声が。
片足を持ち上げられ捲簾大将のそれが、奥の奥までぎゅうぎゅうと入っていく気持ち良さに、いてもたってもいられず。
あぁ、いつもの接待とは別の我慢が必要だ。
ぐち、ぐち、と音をたてて奥を擦り上げていく感覚に口に拳を当てて声が出てしまうのを堪える。
余裕がない。捲簾大将の顔も見れない。
その時。
まだ着たままだった上着の裾からするすると手が入って来た。
それはダメだ。
と思ったが時すでに遅し。
腹から胸まで手が這ってそのまま服が捲り上がる。
そこで捲簾大将の手と、腰の動きが止まった。
「・・・・・」
捲簾大将に見られている気配。
こっちはますます顔が見られない。
目をそらしたまま、聞いた。
「えっと・・・、萎え、ました?」
昨日の接待先が少々特殊な性癖を持っているせいで、今日はタートルネックを着る羽目になるほどあちこちに跡が残っていて。
すると我に返った気配で
「いや」
とだけ言って腰の動きを再開し、
人差指と中指でぎゅうっと乳首をはさまれた。
「っっっ!・・・な、ら、結構・・・っ」
思いの外自分の息が切れていて自分でも驚く。
一度止まった時、身体が、というか後ろが
物足りなさげにヒクついたのが自分でも分かって。
昨日の跡を見られたバツの悪さよりも
そっちの恥ずかしさの方が勝った。
そして再び奥を突かれる快感。
もっともっとと締め付けてしまうそこに応えるように
捲簾大将も再奥を何度も何度も突いてくる。
今日はどうしてこんなに感度が良いのだろう。
などと良く回らない頭でぼんやり思ったが
それ以上思考は続かなかった。
前は、どろどろで、はちきれそうで。
なんということか。
後ろだけでイケそうだ。
そういう時にだ。
「出すぜ。」
と彼が一言言って一層激しく腰を揺するから。
部屋に響く粘着音がより大きくなって、気分も身体もさらに高ぶる。
身体はすでに、彼を欲して弓なりに反っていた。
「っっ!」
「〜〜〜っ!」
ほぼ同時に果てたようだ。
口に当てていた拳を離すと、無意識に指を噛んでいたようで、歯型がついて赤くなっていた。
息を整えていると、捲簾大将がこちらを、というか僕の身体の跡を見ている気配。
僕の腹をひと撫でして
小さい声でぼそりと言った。
「ひでえ事すんな。」
余韻の残る回らない頭の中でその言葉が何度も響いた。
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