相変わらず苦しい。息ができない。
けど。
もう片方の手も伸ばして、貴方の頬を両手で包む。
もっと、もっと、と
手を伸ばす。
今まで他人に興味を持った事などなかった。
他人と関われば口を出されて煩わしい事この上なく、
そのうち手まで出されてうっとうしい事この上ないから。
でもこの男は違う。
いつもへらへらして冗談ばかり言ってるこの男。
その裏で、こんな破滅願望に浸食されている。
頬も髪の毛も自分に向けられた瞳も、どれも冷たくて。
逆に自分の中には「興味」以上のなにか、
はっきり認識できる程の、感情が溢れた。
「お前、うぜえ。」
捲簾がふいに手を緩めて僕の上から退く。
「・・・・ッごっほ!」
息を整える間もなく、捲簾はその辺に落ちてた
刀を拾い上げて、こちらへ向かってくる。
その俊敏な動きに回避する暇もなく次の瞬間。
捲簾が刀とともに懐に入り込んできた。
刃が肉を裂いて身を貫く。
痛いことこの上ないけど、そんなのはこの際どうでもいい。
そのまま、捲簾を抱きしめる。
「・・・ッ何しやがる!」
雨でぐっしょりと濡れたその肩を、頭を。
指先が、捲簾の体に食い込むくらいに。
愛した人に裏切られて、憎まれて。
それでも
この人は、人を愛さずにはおれない。そういう性分。
その矛盾を抱えながら、自己嫌悪しながら、
こんな土砂降りの中で生きてる。
抵抗する捲簾の目を間近で見据える。
「そうやって、それでも
人を愛さずにおれない貴方の事が、
僕は好きですよ。」
だからもう自分を殺さないで。
そして、キスした。
捲簾の力が、一瞬抜ける。
それと同時に、また捲簾の記憶が、なだれ込んで来た。
精神世界の捲簾が、僕の事を認識したのか。
なだれ込んで来た記憶は、僕にまつわるものだった。
書類の山で眠る僕。
僕の部屋の掃除。
戦闘。
下界で食べた焼き肉。
そして。
「あっ・・・う・・・」
捲簾の下で、喘ぐ僕。
なんて顔を。
それを上から見つめる捲簾。
その感情も何もかもが、手に取るように分かる。
なんだ。なんてことだ。
顔が熱い。火照っているのが自分でも分かる。
こんなシチュエーションにも関わらず。
捲簾、と言いかけたその時だった。
いきなり強風に襲われた。
目も開けていられず、立っても居られず、
ただただ捲簾を抱きしめたまま。
そのまま、意識が白んで。
意識が遠のくその瞬間、
腕の中の捲簾が、抱き締め返して来たのを
確かに、感じた。
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