そいつが血相変えて俺の所に来たのは
これから書類の山と格闘せんと背筋を伸ばした時だった。
その男、天蓬元帥は机越しに
今にも胸ぐら掴まんばかりに乗り出して、えらい剣幕でまくしたてた。
この天下の観世音菩薩に向かって。
「だから!ちったあ落ち着け!
つか書類吹っ飛ばすな。殺すぞ!」
「落ち着いてなんていられますか!
我が西方軍大将が任務中にたかが子狸一匹助けて
自分は妖怪から一撃食らって、まる2日も意識が戻らないんですよ!」
「だから何だよ。俺には関係ねえ。」
あまりの剣幕なので火に油を注いでみたら
予想通り。ますます頭に血が上ったのか、
一層声を荒げて言った。
「だから!さっきから話してるじゃないですか!
貴方にしか頼めない事があると。」
そう。そんな特異な頼み事でもない限り
この男が俺のところに来るわけはない。
一大事を真っ先に報告されるような間柄じゃあない。
「まーそんな焦るなよ。
適当に待ってりゃそのうち目覚ますだろ。
それまで暇だってんなら、俺の相手でもしろよ。
『得意分野』だろ。」
「相手しろっていうなら、いくらでも、なんでもしますよ。
でも協力はしてもらいます。嫌とは言わせません。」
えぐったつもりが、かすりもしない。
凄みを増して睨まれる。
「・・・貴方は人の意識を操る事ができる。
そう金蝉から聞きました。
だから僕の意識を捲簾の中に入れてください。
この世界に連れ戻します。」
近距離で俺を見つめるその目。
なんて目してやがる。
何を言ってもぶれないその目。
特別何も持ってねえくせにただただ直球で
俺に「お願い」するその態度。
きっと俺が何か言えば、何でもするし
自分の持っているものは何でも差し出すだろう。
この男がだ。
俺の知ってる天蓬元帥はこんな奴じゃなかった。
昔。一度だけこいつに会った事がある。
こいつがまだ軍にも入ってなかったあの頃。
あん時は死んだ魚みたいな目してたってのに。
それもこれも、子狸助けて今はぐーすか寝てるという男が
こいつをこんなに変えたってのか。
他の奴なら、こんなでかい態度で
俺にお願いなどしてこようものなら瞬殺してやるところだが。
興が湧いた。
「・・・病室はどこだ?」
俺がそう言うと、あんだけまくしたてといて、
天蓬元帥は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「なんて顔してやがる。別にお前の体目当てじゃねえからな。
ただのサボりの口実だ。
お前の望みを叶えてやる。案内しろ。」
部屋を出たら廊下で二郎神が伸びてた。
俺の部屋は誰でも入れるような部屋じゃあない。
無断で入ろうとしてもみあいにでもなったのか。
まったく人の下僕をなんだと思ってやがる。
とりあえず、ぶっ倒れてる二郎神は置いといて
俺は天蓬元帥の後について行った。
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