『娼夫時代には心地良いと思った
優しい愛撫の感触は、
貴方を知ってからというもの、
今はすっかり物足りませんでした。』

敖潤は地元の権力者の跡取りであり、
捲簾が勢力を拡大する足がかりとして、
どうしても抑えたい人物だった。
敖潤からの援助が確約さえすれば、組は安泰というところまで
きているのだが、どうにもその確約だけがとれない。
というのも肝心の、組長である捲簾と敖潤が水と油の仲であるためだった。

その頃の天蓬はというと、捲簾に身請けされてから数年がたち、
組の一切の仕事を取り仕切っていた。
そして最近は八戒を養子として迎えたことで、
つきっきりで組の仕事や家の事などを教えている。
だから、その日一人で外に出たのは本当に偶然。
いつから天蓬を張っていたのか。
その人物は屋敷を出てしばらくたった頃を見計らって、
「敖潤様からの文でございます。」と早口に言ったかと思うと、
天蓬のシャツの胸ポケットに文をねじ込んで、そそくさと去って行った。

「驚いたぞ。お前が捲簾に身請けされたと知った時は。」
「・・・っ!?」
数日後、屋敷を尋ねると座敷に入った途端に
強く手を引かれ、天蓬は敖潤の胸の中におさまった。
急の事で少し驚いたが、すぐにいつもの平静を取り戻して、言った。
「その節は、お世話になりました。」
敖潤は天蓬の娼夫時代の客の一人であり、捲簾もそれは知っていて、
たびたび敖潤との折衝の場にも同行していた。

「今日の事は誰にも言わない。もちろん捲簾にもだ。
安心しろ。組への援助も約束する。」
そう言うなり後ろから天蓬のシャツのボタンをひとつ外すと、
するりと手を忍ばせ、胸の飾りをかり、と引っ掻いた。
「あ・・・」
天蓬がびくりと身をふるわせる。
敖潤は優しく天蓬をその場に押し倒すと、これもまた優しく、
丁寧に天蓬の衣服を一枚一枚脱がせて行った。

『彼は性格が真面目ならセックスも真面目。
娼夫だった頃には様々な客と寝たけれど、
彼の静かで穏やかなセックスは嫌いじゃあなかったのですが。
今は圧倒的に何ががもの足りなく感じます。
彼の手が、舌が、僕の体をあちこちを這う度に
僕は焦がれるような、ひょっとしたら気が狂うくらいの、
もの足りなさを感じました。』

『目の前の彼が、僕の上で腰を進めてそれを受け入れてゆく時も、
キスをしている時も、彼の目に自分が映りこむくらい、彼が僕を見つめている時でさえ。
頭の中は貴方で一杯になってゆくのです。
捲簾ならこうする、捲簾だったら、捲簾なら。
彼が僕の中に入って体を満たせば満たす程、
熱に浮かされたように、心は捲簾、捲簾、とひたすら貴方を求めてしまうのです。』

『こういうやり方で彼からの支援を得ることなど
貴方はとても嫌がる事なんて、分かっています。
彼は黙っていると言ったけれど、帰ったら貴方に打ち明けます。
打ち明ければ組の決まりにしたがって
指を詰めるか、勘当されるか、はたまたリンチか。
相応の罰がある事も分かっています。
それでも全てこうせずにはおれないのです。』

『今まで人やものに執着なんてしなかったんですけどね。
稼いだ金も全て煙草と本に変わって。
貴方と出会ってから、僕の中で何かが狂ったのです。
貴方といると、体の奥から、様々な欲望がどんどん湧いて来る。』

敖潤との事は、帰宅して早々に捲簾に打ち明けるつもりでいたが
天蓬はその前に、湧いた欲のままに捲簾を求めた。
二人で絡んで、達して、抱き合って眠って。
明け方。天蓬が髪を撫でると、捲簾が目を覚ました。
「捲簾、もう一度・・・」

『そう言って唇を落とすと僕が欲しいタイミングで舌が絡み付いてきて、
痛いくらいに、これが限界というくらいまで両手でその体をきつく抱きしめれば
貴方は絶妙の強さで、僕の体に指が食い込むくらい強く抱きしめ返す。

貴方が笑う気配。

貴方の唇が僕自身を包むその心地良さ。
追い立てるように舌で舐め上げられる。
声を漏らせば貴方の強くて鋭い目線。
それを受けながらまた欲に溺れていく。
打ち明けるのは、このあとで。
今は貴方をしっかり味わいたいのです。』

 

時期的には「その1」の後の話です。
結局お咎めは無かったけど、そこから天蓬は捲簾の寝屋に呼ばれなくなったっていう。
天蓬の独白を混ぜてますが、これはこの後で捲簾に話した言葉じゃなくて、あくまで独白です。

▲任侠沙汰