第8話 (悟浄)

「八戒、待てって。」
怪我人のくせにスタスタ路地を歩く八戒の腕を掴んだ。
アパートから逃げて来てどれくらい時間がたっただろうか。
結構走ったし逃げた。
「ここらで休憩すんぞ。腕、限界だろ。
せめてこの先どこ行くか決めて逃げねえと。」

八戒はそれでも歩きながら言う。
「何寝ぼけた事言ってるんです。
追っ手は捲簾なんですよ!?あの!
一緒に行動してた僕の上司が撃たれたくらいで
任務を中断するような男じゃないです。
気を抜いたら一瞬で殺されますって。」

ああ、だからか。八戒は動揺してる。
「あんたの上司なら、生きてるよ。」
そこでやっと八戒が止まって俺の事を見る。
「なんですって?」

「心臓逸らしてるし、至近距離だから
弾だって抜けてる。速攻で救急車呼んで、
応急処置すりゃ助かる。現に追ってくる気配、ねえだろ。」
「それは・・・でも捲簾は・・・」
「つーかお前の上司、わざと俺に撃たせたんだ。
あの一瞬で捲簾欺いて八戒を撃つと見せかけて
ちらっと俺の事見た。
だからあいつの望む通りに撃った。それだけ。
お前の上司が、あの捲簾の何を見抜いて
自分を介抱するだろうと見込んだのかは知らねえけど。
一歩間違えば野たれ死にだからな。
お前の上司って奴、すげえな。」
まるでサッカーの完璧なシュートみたいな。
ものすごくいいタイミングで、
ものすごく良いパスが届いたから、
ただ蹴っただけ。そいつが一瞬の機転で
描いたゴールのイメージになぞって。

「悟浄」
とっさに八戒に抱きつかれてキスされた。
「ありがとう。」
そしてこんな近距離で、またにっこり笑うのだ。
顔が赤くなるのが自分でも分かる。

「お前な・・・。
そういう顔とかキスとか、さっきっから
何度もしてっけどさ、んな安売りすんじゃねえよ。」
ああもう何言ってんだか自分でも分かんねえ。
んな近くに来られたら、どうすりゃいいのか分からない。
というかこれ以上こいつに見つめられたら
どうにかなりそうだから、八戒の肩をつかんで引き離す。

そんな俺を見て八戒はすべてお見通し、といった風で、
「いいですねえ。悟浄は。分かりやすくて。」
などとにこやかに言い放つ。
おちょくられてねえか。
「それ、けなしてんの?褒めてんの?」
「讃えてるんです。」

 

細い路地からそっと大通りを見ると
諜報部員であろう黒服と警官たちが検問している。
囲まれる前に、逃げねえと。

「ねえ悟浄、一緒に組みません?
どうせ僕たちお尋ね者だし。」
相変わらずニコニコしながら言う。
「あんなあ、さらっと言ってくれるけど
お前の盗んだデータのせいで、俺たちこの国に居る限り、
いや世界のどこに行っても命狙われることになるんだぜ?
これから。」
「だからですよ。一人より2人の方が。
楽しいでしょ?」

「楽しいっつった?」
「スリルがあって、いいじゃないですか。
僕、悟浄とだったら、やっていけそうな気がする。」
「だからお前どうしてそういう台詞をさらっと・・・」
ああもう完全にこいつのペース。
こんな危機的・絶望的状況にも関わらず
こんなに浮かれてられるのは。
むしろこれからの逃亡劇に
わくわくしてる自分がいるのは。

「つーかどこに逃げるか決めてねえけど」
「逃げながら決めましょ、そんなの」
「それいーね。じゃ、いきますか!」

細い路地を2人、駆け出した。

 

おわり

▲風にあやかって逝け