第8話
数日後。
「ただいまー。」
夜、帰宅すると
窓際のソファにだらりと横たわる天蓬。
さすが最高の愛玩と言われたことだけある。
こうして黙って横になっているその姿は、人形のようだ。
目、鼻、頬、一つ一つ整ったパーツを撫で回してると、天蓬が目を覚ました。
「ああ、おかえりなさい。」
「どんだけ昼寝するんだてめえは。つーか洗濯もん取り込んだのか?」
「ああ、今やります。」
とか言いながら傍らにある本を捲りだす。
「お前がここまで生活能力がないとは思わなかった。」
呆れてそう言うと本に目線を落としたまま、天蓬が言った。
「ところで、貴方に殴られて出来た瘤がまだ痛むんですけど。」
「瘤ひとつで自由の身になったんだから文句言うな。」
男はベッドの上でよろしくやった相手には、
自分の所業をうっかり漏らしてしまう生き物らしい。
映画なんかでも、女スパイが敵の男と寝て
情報を聞き出すなんていうのを見かける。
天蓬も例に漏れず、李塔天から脱税や厚労省との癒着話なんかを
武勇伝のごとく聞かされていたらしい。
李塔天は、施設から出る事もない愛玩に情報を漏らしても
害はないだろうと油断していたのだろう。
俺はそれを利用させてもらい、知り合いの雑誌編集者に情報をタレ込んた。
スキャンダルによる施設の混乱に乗じて、
天蓬を殴って見つからないように拉致。そして天蓬が逃げたように工作。
俺は自分の過失で天蓬を逃がしてしまったと報告書を出して
責任を取って退職。
そんな筋書きがここまでうまく行くとは正直思っておらず、
まるで映画のように、あちこち逃げ回る逃亡生活が始まるのか
と考えていたのだが、トントン拍子に事が運びそんな必要全くなかった。
天蓬逃亡の報告書が、ろくすっぽ検証されずあっさり受理されたのだ。
お偉い方は、天蓬を売り飛ばして大金を手に入れたいと願いつつも
いつまでも天蓬が売り物にならないので、専属飼育員の離職問題や、
天蓬をひとり部屋で生活させるコストに頭を悩ませていたらしい。
そんな天蓬を気に入って手元に置いておきたい李塔天とは
何気に対立していたようで、事情聴取で李塔天が不在のうちに
天蓬が居なくなったのは、お偉い方には好都合ではあったようだ。
こうして俺は養う人間ができた上に無職となり、
ハローワーク通いと転職活動の日々だ。今日も面接帰り。
スーツを脱ぎながら、今だ本を片手にだらだらしてる天蓬に尋ねる。
「つーかメシは?」
「ありませんよ?」
当然のように言うな。
「ありませんよじゃねえ。なんか作れよ。
一日中家にいるんだからよ!ちったあ家の事やれ!
働かざるもの食うべからずだ!」
そう言いながら冷蔵庫をあさって料理するのは結局俺。
これからの生活が思いやられる。
「仕方ないじゃないですか。
他の人と違って、そういうの何も教わりませんでしたから。」
そう言って冷蔵庫を覗いてる俺の背中にもたれて来た。
そうだこいつ施設以外で暮らした事もなければ
八戒のように家事全般を仕込まれたわけでもない。
生活する術などなんにも知らない王様。
「僕にできることといえば。」
天蓬のきれいな指が俺のTシャツを捲り上げて
胸や腹を撫で回してくる。
「こういう事だけですけど。」
振り向くといきなり舌が入ってくるようなねっとりしたキス。
さんざんっぱら人の口中を貪ったかと思えば、
突然くちゅ、と音をたてて唇を離し。
「いいですよね?」
にっこり笑って言う。
俺がNOと言わない事を知ってて
そんなことわざわざ聞くな。このバカ。
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