第6話

捲簾という男は、破天荒かつ傍若無人に振る舞いつつも
面倒見がとても良い奴なので、上司には疎まれつつも同僚からの信頼は厚く、
愛玩からも慕われているような男だ。
たまに悟空を職場に連れて行くと、
仕事の合間をみて悟空をかまうので俺も何気に助かる。

しかし今日。悟空の一言を聞いて、ぎょっとした。
「最近の捲兄、すっごく楽しそうだね!」
ちょっと待て。聞き捨てならない。楽しそう、だと?奴が?
「は?一体奴のどこが楽しそうなんだよ」
「だって会うと鼻歌歌ってるし。最近よくお菓子くれるし。
最近、急にだよ。なんか良い事あったのかなあ。」
勘弁してほしい。

この仕事は愛玩を飼育したり客の好みに合うように『教育』したりと
ちょっと特殊な、というか面倒な仕事だが、その分給料は良い。
慣れれば長く続けられる仕事だと思うが、
愛玩のプロトタイプである天蓬の飼育員になった奴だけは、離職率が高い。
というのも、天蓬担当になった者は、いびられ精神的にまいるか
勝手に岡惚れして勝手に身を持ち崩すかのどちらかだからだ。
特に後者は目も当てられない。
捲簾が天蓬の飼育員となった時、こいつなら大丈夫だと思ったのだが。
嫌な予感がする。
もし仮に。あの捲簾が天蓬に入れ込むような事態になったら。
奴はどんな行動に出るというのか。考えただけでぞっとしない。

「お前、天蓬とどうなんだ。」
翌日。仕事上がりに一服している捲簾を早速問い詰めると、
人の気持ちに聡いこの男は、俺の顔をちらりと見て
かわす事も無く直球で飄々と「本気だけど。」と言った。
まさかこの男まであの天蓬の毒牙にかかるとは。俺は盛大にため息をついた。
「悪い事は言わん。諦めろ。」
「天蓬も本気。」
余計にタチが悪い。
「だからなんだ。奴は愛玩のプロトタイプで、
お前は奴を『売り物』になるように『教育』する飼育員だ。
その立場は変わる事はない。
相思相愛だからといって楽しい結末が待ってるとは思えんが。
後戻りできなくなる前に目を覚ませ。捲簾。」
それだけ一気に言うと、捲簾はすっと真面目な顔になって言った。
「あいつを八戒の二の舞にするのはご免だ。」

八戒。一度売られたものの飼い主に飽きられて自殺未遂を計って
2度目に売られた時には虐待を受けて酷い目にあった愛玩だ。
手術後のリハビリや世話は、俺と捲簾が担当した。
「確かにあいつは・・・大変な目に合った。だがあれはレアケースだろ。
そうならないように俺たちが愛玩達を『教育』すれば良いだけの話だ。」
「売られた奴らは大なり小なりああいう目にあってるんだよ。
それに『教育』っつったってタカが知れてる。問題は飼い主だ。」
「そもそも奴をこの施設に留まらせて何か良い事あるか?
お前は良いかもしれんが、あいつはここに居る限り
ますます園長の餌食になるだけだ。今日も接待でどっか連れて行かされるんだろ。」

俺がそう言ったところで、捲簾は急にふっと笑いだした。
この男の頑固な性格からして、このまま平行線の言い合いに
なるのではないかと思ったのだが。
「今日の接待は中止だ。」
そう言って週刊誌を投げてよこす。
表紙には大きく
『愛玩事業に暗雲! 代表李塔天 脱税・厚労省と癒着の疑い』の文字。
「・・・!」
「この会社、当分荒れるぜ。しょっぴかれるのも時間の問題だし。
今はお偉い方が情報確認に躍起だろう。」
そう言ってクククと笑っている。ちょっと待て。なんだその笑い。
「お前、何した?」
「なんも?」
だからなんだその笑いは。
「金蝉。ついでだ。お前も巻き込んでやる。ついて来い。」
何か企んでるような笑みを浮かべて、捲簾は天蓬の部屋へと向かう。
企んでいるような、ではない。企んでいるのだろう。
何かとんでもない事を。

捲簾は天蓬の部屋に入ると挨拶代わとでもいうように
腰を引き寄せキスする。
「んっ・・・」
天蓬も自然に受け入れているところを見るとやはり本物なのであろう。
今まで飼育員に全く懐かなかった天蓬が
捲簾の腕の中に収まってにっこり笑っている。天蓬のこんな顔初めて見た。
そんな事を考えてた俺の目の前で、次の瞬間に捲簾はとんでもない事をしてくれた。

天蓬が入り口に突っ立っている俺に気づいて
「今日は金蝉も一緒なのですか?珍しいですね。」
と言って俺の方を向いたその時。
ガツン
捲簾が手にしていた本を天蓬の頭に振り落とした。

「・・・あ!」
と小さく言って崩れ落ちる天蓬を抱きとめる。
「いつかのお返しだ。こんなんじゃ足りねえけど。」
「捲簾!お前・・・!」
気を失った天蓬は俺の腕のなかにぐったりともたれかかって来る。
「まあまあ落ち着け。死んでねえだろ?」
「あ、当たり前だ!」
ついに血迷ったか。
本当に、天蓬にのめり込んだ奴は目も当てられない。

 

金蝉目線です。

▲愛玩動物