第3話

「くそったれ・・・!」
頭はまだ強烈に痛むものの、意識がはっきりしてきて部屋の中を見回せば
入り口にはピタゴラ装置のごとき仕掛けと、傍らには分厚い本が。
俺が部屋に入るとこの分厚い本が落ちて来る仕組みになっていたのだろう。
道理で頭がぐらぐらするはずだ。
拘束を解こうともそもそ動いていた所に、金蝉が来た。ナイスタイミング・・・!

「さっき天蓬がひとりで外を歩いてるのを見かけたのでな。
お前に何かあったのかと思って来てみれば・・・
まんまと嵌められたな。」
そう言って拘束を解いてくれた。
「まあな。天蓬どのへんに居た?捕まえねえと。」
「裏庭のあたりだ。
因に天蓬がこの部屋を出た事はまだ誰にも言ってない。」
「恩に着る!」
そう言って天蓬の部屋を飛び出した。

愛玩が部屋を脱出したことがバレれば
俺ら担当飼育員は減給だ。
そんなことはどうでもいいが
脱出した愛玩にも重い処罰が下される。
それは避けたい。

金蝉の言っていた裏庭を一通り探したが、見つからない。
まさか施設の外にまで出たということは無いと思うが。
もしそうなれば大問題だ。
裏庭以外にも方々探しまわったが
天蓬はどこにもおらず、途方に暮れて裏庭に戻ったら。

いた。何事も無かったかのように。
煙草をふかしながら、ひなたぼっこかよ・・・。
「どこにいた、てめえ」息を切らしながら言うと
「ずーっとここにいましたよ?
あなた脇目もふらずに行ってしまうから。」だと?

「僕、あなたが気に入りました。僕が一生懸命作った仕掛けに
あんなにきれいに引っかかってくれるし。
僕の事あんなに一生懸命探してくれるし。
変な下心が無ければ文句なしですねえ。」
そう言って短くなった煙草を投げ捨て、
どこで拝借したのか分からない便所下駄でもみ消す。
「俺はお偉いさんに命令されてお前の飼育員やってるだけで
別にお前を商品にして叩き売ろうとか、興味ねえけど。」
そういってハイライトをひったくって1本銜えた。
「いいですねえ。あなたの事、益々気に入りました。」
そう言って目を細めて笑った。
銜えたばかりのハイライトがぽろりと落ちる。

それからはこんなやり取りを何度繰り返したか。
天蓬は「この部屋は日当りが悪いから昼寝に不適です。」とか
「あなたがもみ消してくれるでしょう?」
とか言っては、妙な仕掛けを使ったり言葉巧みに俺を騙して、脱走を繰り返す。
そして俺はその度にトムとジェリーのごとく追いかけるのだ。
見つけ出すとその度に天蓬は嬉しそうに、にっこり笑う。
その度に動悸が激しくなるが、それは走って追っかけたせいだと思いたい。

 

その日は部屋に入るなり何かで頭を殴られたのだが
打ち所が悪かったらしく、本気で気を失っていたようだ。
気がついたらすぐ目の前に天蓬の阿呆みたいに奇麗な顔があった。
「ちょっとの間、痛みに悶絶してもらえばその隙に脱走するのに。
なんで普通に気絶するんですか。」
そんな困った顔されても、俺が困る。
「俺のせいにすんな。お前が手加減間違っただけだろ。
立派な殺人未遂だぞバカ野郎。」
「一瞬殺しちゃったかと思いましたよ。」
そう言って俺の髪を撫でるから。
たまらなくなって首を少し持ち上げると
向こうもそれに応えるように近づいて

キスした。

やっと自覚した。
ああ俺浮かれてる。こいつにハマってる。
こいつとの追いかけっこが楽しくてたまらないんだ。

 

両思いの二人。

▲愛玩動物