第2話
全く勘弁してほしい。
俺は食事がのったトレーを持って
天蓬の部屋へと向かっている。
天蓬の専属飼育員を任命されたのは昨日。
そろそろこの仕事も潮時かな〜なんて考えてた矢先に
お偉いさんに呼ばれて何事かと思えば、天蓬の専属飼育員になれと。
「君も噂で聞いていると思うが、愛玩第一号の天蓬は
仕様としては申し分ないんだが、少々問題があってな。
そこで君には『愛玩の幸せは飼い主に飼われて愛されて暮らすこと』
だと天蓬に教え込んで欲しいのだ。」
人に飼われるのが幸せって言われてもな。
「君は言動といい、その傍若無人な振る舞いといい
決して模範飼育員とは言えないが、
愛玩達には慕われているそうじゃあないか。」
誰だ。俺の事こいつにチクったの。敖潤か。
何度か断ったものの、その後もぐだぐだと言いくるめられ
結局引き受ける羽目になっちまった。
自分のデスクに戻ったら戻ったで、この事を隣の席の後輩に言うと
「えぇ、あのプロトタイプの飼育員ですかぁ!?」
と驚かれ、今まで天蓬の飼育員になった奴らの末路を
勝手に話し始めた。
骨抜きになって「自分が天蓬を買い上げる!」と言い出して
借金で首が回らなくなった奴。
(遊女の身請けみたいなもんだが、とんでもなく値が張るだろう)
天蓬にいびられて精神的に追いつめられ鬱病になった奴。
などなど。ろくな事が無い。
商品として売られることが嫌で様々な抵抗をしているとは聞いていたが。
そんな奴の飼育員なんぞになってしまうとは。
手のかかる美人は良いが、性悪なら勘弁してほしい。
色々回想してるうちに天蓬の部屋についた。
いくつもの南京錠をあける。
他の愛玩は刑務所のように
何人かが一緒の部屋で寝泊まりして、
一緒にメシを食って暮らすが、こいつだけが違う。
過去の幾度もの脱走歴からひとり部屋の上に鍵がかかっているわけだ。
「メシの時間だ。入るぞ。」
取って食われないように精々頑張りますか、
そうぼんやり思いながらドアを開けると、
噂の問題児、天蓬が部屋の真ん中で倒れていた。
ぎゅっと胸をおさえて、苦しそうな表情で
ぱくぱくと口を動かしている。これはただ事じゃあない。
「どうした!?」
急いで駆け寄ろうとしたその時
なにかに引っかかって、つんのめった。
足下を見ると、紐のようなものが足に引っかかって・・・と思ったら。
ガツン
「!?」
後頭部にものすごい衝撃。
ドサッ
「!!」
今度は全身に衝撃。
それが自分が床に倒れた衝撃だったことに気づいたのは
数秒たってからだった。一体何がどうなってる?
目がくらんで動けない。
頭上からクスクスと笑い声が聞こえて、ようやく嵌められたことに気づいた。
「痛てぇ・・・!」
後頭部をおさえる俺の手に、天蓬のものであろう
冷たい手が触れる・・・と思ったらどうやら
俺は両手を後ろ手に縛られてるようだ。
次はシュルシュルと音がしてベルトが抜き取られ、
それでひざをぎゅっと縛られる。
「ここまで鮮やかに引っかかってくれる人、初めてです。
嬉しいですねえ。仕掛け作った甲斐がありましたよ。」
弾んだ声で言いながらまだ動けない俺をごろん、と仰向けにする。
天蓬は楽しそうに俺の胸元をまさぐって、
「これ頂きますね。」と言ってIDカードを取り出した。
俺は今だはっきりしない意識のまま、それを見つめる。
はは、噂に違わずえらい美人じゃねえか。
続いて胸ポケットも物色して、煙草とライターも取られた。
「ハイライトですか。うーん。まあいいや。
頂いていきましょう。これも失敬。」
そう言ってすっくと立つと、スタスタ歩いて行く。
「ちょ・・・待て!お前、何する・・・」
「見てわかりませんか?脱走です。」
満面の笑みで答える。
そしてひらひら手を降って、悠々と部屋を出て行った。
あんの野郎・・・!
これが問題児天蓬との、忘れもしない出会い。
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捲簾目線。1話から一転してごきげん天蓬。