第1話

廊下をカツカツと歩く音がする。
無心になって読んでいた本から顔をあげると
日が落ちかけて部屋の中は薄暗くなり始めていた。

8畳程の部屋にユニットバス付き。
シンプルな机とイス、ベッド、本棚。そして本棚に入りきらない本が
平済みになって、あちこちにタワーを作っている。
他の愛玩と比べれば特別待遇なのは知っているが
部屋というより牢屋だ。僕が逃げ出さないようにと、
扉の外には厳重に鍵がかけてある。
唯一ある窓も、はめ殺しになっていて開かない。

足音はどんどん僕の部屋に近づいて来る。
時計をみたらまだ17時。
飼育員が夕飯を運んで来る時間じゃない。
飼育員以外でここに来る人間といえば
僕が最も嫌う人間しかいない。

ガチャガチャと音をたてドアが開く。
「なんだ、電気もつけずに。真っ暗じゃないか。」
そう言って李塔天が入って来た。
そろそろと僕との間合いをつめて来るので、
僕は立ち上がって距離を取った。頼むから近づかないでくれ。
「明日の夜は私と外出だから準備しておくように。
こないだ会った厚生労働省の役人の接待だ。」
「あの人はしつこいから嫌です。」
こないだ枕営業で相手させられた役人だ。顔が脂ぎっていて、指がとても太くて。
あの時は一睡もできなかった。
「嫌なら嫌でも良い。抵抗するようなら薬を使うまでだ。」
そう言って李塔天が薄ら笑いを浮かべながら、
僕を捕らえようと平積みになった本を避けて近寄って来る。
僕もじりじりと移動して距離を保つ。
こんな事伝えにわざわざ僕の部屋まで来るような奴じゃない。
この人がわざわざここに来るということは・・・。全く勘弁してほしい。

「天蓬。いい加減つまらん意地を張ってないで考え方を変えなさい。
君たち愛玩は、飼い主の相手さえすれば三食昼寝付き。
人間みたいにあくせく働かなくても生きていけるんだから
いいじゃあないか。
世の中にはそれぞれの役割ってもんがある。
それを逸脱して、ないもの強請りは良くないってことだ。」
この話なら100万回くらい聞いたのではないか。
僕はうんざりして、李塔天の言葉に被せて言った。
「あなたやあの役人の汚い手で蹂躙されることが役割だというなら、
その辺の犬の餌にでもなった方が大分ましですね。」

「なんだと!?」
李塔天は語尾を荒げて突然飛びかかって来た。
逃げようとしたものの、本に足を取られてよろける。
とっさにシャツの裾を掴まれ思い切り引き寄せられ、押し倒された。
僕に触るな。両手でのしかかって来る体を押しのけるがびくともしない。
李塔天は薄笑いを浮かべたまま僕のシャツを引きちぎる。
その顔を近づけないでくれ。息がかかる。気持ち悪い。やめろ。

「僕はただ、一人の人間として当然の権利を主張しているだけですよ。
遺伝子上の両親は人間なんだから、僕も人間です。」
僕の上に股がる李塔天を睨みつけて言った。
「まだそんな事を主張するのか!」
やっとのことで李塔天の汚い手を振り切って、
這って逃げ出そうとするも手早くベルトを引き抜かれ、
下着ごとズボンを下ろされた。
「・・・っ!!」
「いいか!そんな遺伝子など研究に研究を重ねてかなり弄っている。
お前達のその姿形は人工的に造られたものなのだ。
そしてお前達は成長ホルモンを打つから人間よりも早く成長し、
寿命も短い。生殖機能もない。これのどこが人間と同じだと言うのだ?
なにより・・・!」
「あ・・・!」

李塔天の指がぬるりと体に入って来たので、僕は思わず仰け反った。
頭は拒絶しているのに、体には甘い刺激が走り、
すんなりと指を受け入れている。力が抜けて抵抗もできない。
「口でなんと言おうと、こうなればもう抵抗もできまい。
子供の頃から仕込まれたが故だ。
ひとたび刺激すれば
体が熱を求めて抵抗すら出来なくなるだろう?
頭で何を考えようと体は開いて行く。」

「んんっ・・・」
指が引き抜かれて、李塔天自身がぎちぎちと侵入してきた。
下半身に熱が満ちて行く感覚に、気が狂いそうになる。
こんなの嫌なのに。嫌でたまらないのに。
李塔天の言う通り、体は熱を根元まで銜え込んでしまった。
ぼんやりした頭に、李塔天の言葉がなおも響く。

「お前達は性欲に従順に出来ているのだ。理性などない。
これが動物の証だ。だからおまえは動物なのだ。」

そこが熱くてたまらない。
止める事ができない。気づけば自身も腹につく程反り返り
李塔天の上下に動く体と擦れ合っては蜜をとろとろと流している。

「昔はこうするともっと善い顔をしたものだが。」
「ああっ・・・!」
李塔天がいっそう早く腰を動かすので、勝手に腰が浮いて
奥へ奥へと挿入を望んでしまう。もっと熱を、もっと摩擦を。

「お前は育て方を間違ったなあ。
最初に人間扱いしたのが間違いだった。
それを教訓に、お前の弟妹達には相応の教育をしているが、
自分の役割を自覚して、愛玩として幸せに暮らしてるぞ。
お前だけだ。つまらん意地をはってるのは。」

遠くで李塔天がそんなことを言っていた気がするけど
頭が朦朧として良く分からない。

こんなのが僕の日常。

 

天蓬目線。

▲愛玩動物