ねえ捲簾、おもしろい夢をみましたよ。
そんなこと言わずに聞いてくださいよ。
ちょっと変わった夢なんですから。
忘れないようにあなたに話しておきたいのです。
夜。夢の中で僕は一軒家の前に立っていました。
その一軒家の中に入ってみると、中は僕の部屋と違ってきれいに片付いているんですけど
でもそれがとっても寂しい感じがして。
誰かいないかと家の奥へと進んでいって、寝室と思われる部屋に足を踏み入れたらですね、
ベッドには一人の若い男が裸で寝ていたのですよ。
ちょうどカーテンの隙間から月明かりがさしていまして、
真っ暗な部屋の中でその青年だけを照らしていました。
近くに寄って見るとその青年は僕の若い頃にそっくりでした。
でも髪は短くてですね・・・体までしっかりと見たのですが
体つきも似ていましたね。ただ腹には大きな傷があって。
そうしてこの青年は何者なのかと観察していたらですね、
目覚めたのですよ。その青年が。
青年は何も言わず僕をじっと見つめていたので僕も見つめ返しました。
そうそう、僕と違うところがもうひとつあって。
目の色がきれいな翠なんですよ。宝石みたいに。
くりぬいて天界に持って返ろうかと思ったくらいです。
そんなことを考えていたら青年が口を開きましてこう言うのです。
「ぼくは八戒といいます。僕の話を聞いていただけますか?」
初めて会った、しかも無断で寝室にあがりこんだ僕に向かって
話を聞いていただけますか、と丁寧にお願いされても正直困るんですが
他にすることも思い浮かばなかったので、僕は話を聞くことにしました。
「いいですよ。はっかい。」
「僕には愛する人がいますが、その人の心がどうしても、分からないのです。
僕があの人に愛していると言えば、あの人は僕を抱きます。
でもなぜ抱くのかは分かりません。
僕に好意を持っているわけでもないようです。
あの人と肌を重ねれば重ねるほどあの人が分からなくなり、距離が遠くなるのです。
あの人の心はどこにあるのでしょうか。僕は心を通わせることはできるのでしょうか。」
青年は遠い目をして言いました。
そこで僕は、どうしてか分からないのですけど、気づいたのです。
この青年は僕の生まれ変わりであり、青年の想う人は捲簾、あなたの生まれ変わりなのではないかと。
だから僕は言ってやったのです。
青年の冷たいさらさらした頬に手をあてて。この上なく優しく。
「いいですか。あなたはこの先、ずうっと独りですよ。
その人の心など分かろうが分かるまいが、独りきり。
色んな人間があなたを取り巻こうとも、あなたの心はいつも独りきり。
誰とも心を通わせることはなく、永遠に独り。」
そういうと青年は、目を伏せひとすじ涙をこぼして、
「よかった」
と心底安心したようにつぶやきました。
「おやすみ かわいそうな はっかい」
僕はそう言って青年にキスしました。
そうすと青年は頬を涙でぬらしたまま、目を閉じて、しばらくすると
本当に小さな寝息を立て始めました。
ここで夢は終わり。あなたが僕を起こしたから。
ね、変わった夢でしょう。
違いますよ。意地悪なんかじゃあないです。
あなたの体も心もすべて僕のものなのです。
あなたの吐息すらもあなたにまつわる全てのものは全部僕のもの。
あなたが死んで別のものに形を変えてもそれも僕のもの。
僕が死んだってあなたは僕のもの。
僕の生まれ変わりにすらあなたを渡す気などないのです。
僕でないなら、あとは独りでいいのです。
ああ、そんなことより捲簾、出勤までもう少し時間があります。
僕を抱いてください捲簾。
そう。いつもみたいして。
もっと気持ちよくして。
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天蓬はたとえ生まれ変わりであっても八戒に悟浄を渡す気はない。
捲簾にまつわる全てのものを独占したい天蓬の話。