「だから。風呂なら自分の部屋のでちゃんと入りますから。」
「うだうだうるせえなー。いいから来いって。」
下界で何日もかかる任務が終わって、やっと天界に返って来た今。
天界唯一のスーパー銭湯に行く行かないで
我らが西方軍第一小隊の大将と元帥が揉めてらっしゃる。
今回の任務は今まで一番キツかった。
予想外に妖怪の数が多く、下界滞在中はほとんど戦闘に追われたため
その辺の川で水浴びすることも叶わなかった。
おまけに麻酔銃を打ち込んだら、巨大な妖怪の体から体液だかなんだか
分からない液体が吹き出て、ほぼ全員がそれを頭からかぶってしまって
それが臭うのなんの。
やっと任務が終わった今。軍の保養施設でもあるスーパー銭湯に
「みんで行こうぜ!」と捲簾大将が言い出して
我々隊員も「行きましょう行きましょう」と乗りだしたのだが、
天蓬元帥だけは、「みなさんで行って来てください」と頑に参加しない。
そういえば、任務あけに捲簾大将とスーパー銭湯に行く事はよくあるけど、
そのつど天蓬元帥は辞退していたような。
ただでさえ風呂にあまり入らない元帥を、このまま放置したらやばい。
「元帥、失礼!!!」
「え!?・・・ちょっと!」
誰もがそう思っていたらしく、大将の目配せひとつで
我々は恐れ多くも元帥の両脇を抱え、スーパー銭湯へ直行したのだった。
かくして。
我々は任務の垢を落とし、おのおのが好きな湯に浸かった。
ここには広い敷地に、大浴場の他にジェットバスやらサウナも含めて
いろいろな風呂がある。
まずは基本の大浴槽に入ると、はじっこで酔っぱらいのご老体数人が、何やら騒いでいる。
話を聞いているとなにやらご老体方は退役軍人で大分酒が入っているようだ(危険)。
背中流せだの、このあと一杯つき合えだの、俺を誰だと思ってるんだだの、誰かに絡んでいる。
酒が入っているとはいえ、穏やかじゃない。
近づいて様子を見てみると、なんと絡まれてるのは
天蓬元帥だった。
確かに裸になってしまえば軍人かどうか、
ましてどんな階級かどうかなんて分からないから、
端整な顔立ちの、ひょっとしなくても女性にも見える美しさに
絡みたくなるのは分からなくもないが、その辺で止めておかないと危険すぎる。
ご老体方が。
天蓬元帥の剣や射撃の腕前が相当なものであることはもちろんの事、
線の細さに反して体術もかなりできる。
一度訓練で手を捻り上げられたが、あの時は本当に腕がもげるかと思った。
ご老体方のご乱行はエスカレートし、いいから来いやと言わんばかりに
元帥の腕をひっぱる。ふっと微笑む元帥。
やばい。元帥がキレる前兆だ。ご老体の息の根が止まってしまう。
焦ってばっさばっさと湯の中を歩いてご老体を止めに入った。
「西方軍第一小隊 天蓬元帥」の名を出せば、ご老体方はばつの悪そうに
ぶつぶつ言いながらいとも簡単に退散していく。
「大丈夫ですか。元帥。」
「ありがとうございます。
だから嫌なんですよね。共同浴場って。
絡まれるし。眼鏡取るから何も見えないし。」
そう言うと
突然。
鼻先数センチ。というところまで顔を近づけて来た。
眼鏡を取るとますます女性に見える整った顔立ち。
髪の毛から滴る雫。
上気して僅かに赤く染まった頬。
吐息が、顔にかかる。
美しい顔が、あり得ない程近くにある。男相手にどうにかなりそうな・・・
「あー、あなたは第一小隊の、、、えーと名前なんでしたっけ。」
元帥。自分、第一小隊の中でも在籍歴は長い方なのですが。
決して信頼されてないわけじゃあない。ないのだけど。
例え自分の部下であっても名前が定かでない。それが元帥。
だから、泣くな俺。
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は・・・はじめての、ギャグ?