「変な夢ー。」
体に、手に、夢で見た感覚が残ってて、気持ちが悪い。
そして
起きたはいいが、状況が全く把握できなかった。
病室に病人の格好してベッドにいる。
そして隣のベッドでは、天蓬がすやすや寝てる。普段通りの白衣で。

「お、やっと起きたか。どうやら成功したらしいな。
あとはこいつが目覚めれば終わりだな。」
「!?」
病室の窓にもたれて、観音が煙草をふかしてた。
全然気づかなかった。なぜ観音が。
「任務で妖怪にやられたの、覚えてるか?」
「全ッ然覚えてねえなぁ・・・」
任務で下界に降りた所までは覚えてるけど。
驚きのあまり、観音にすらタメ口だ。
「お前は任務で妖怪にやられて、ここ2日意識が戻らなかったらしくてな。
それでこいつが血相変えて俺の所に来て、
お前の意識の中に潜らせろって脅迫せんばかりに迫ってきたもんだから、
超貴重な時間を割いてこうやって協力してやったわけだ。分かったか色男。」
観音は一方的にまくしたてると、短くなった煙草を灰皿でもみ消した。

血相?脅迫?
「天蓬が?俺のために?」
なんだかピンとこない。こいつが俺のためにそこまでするとは思えない。
「そーそー。なんでもお前に急いで聞きたい事があるから・・・
とかなんとか言ってたが。よっぽどお前にご執心なんだな。
お前の中に潜ったんだ。こいつの胸の内なり昔のことなり、見だろ?」
そう言って新しい煙草に火を付ける。

「まあ人の心の中なんぞ覗いた所で面白いもんなんざねえが
こいつの中なら尚更だろう。
俺もこの仕事長くやってると、出世のために何でもするような奴は
ごまんと見て来てるが、こいつ周りにいる大人はそういう部類の人間だった。
しかもそのためにこいつを売るような奴らだ。
ガキの頃から周りの大人に喰いもんにされてくりゃあ
変わりモンと評されるくらいには、性格も捩じれるわな。」
そう言って寝ている天蓬の頬を撫でる。

「・・・あの夢が、天蓬の?」
あいつが佇んでる深淵。揺れる天井と、何かを毟り取られて行く感覚。

「つか、なんであんたがそれ知って・・・」
「その昔、俺のところにも来たのさ。
その最低な奴が。こいつが軍に入隊する前、まだガキのこいつを
『好きにしていいからその代わり・・・』ってな。」
「な、に・・・」

「俺はまあそういうのは全部つっぱねてるがな。
しっかし、あん時死人みたいな目してたガキが
ここまで変わるとはなあ。
すげえな、色男。名前なんだっけ。」
「捲簾・・・」
「捲簾・・・?ああそうかお前・・・ふーんどうりで。」
そう言って観音はにやにや笑いながら、ひとり納得しだした。

「何なんだよ。」
観音の、この全て見透かすようなこの視線。一体どこまで知ってるんだか。
軍には絡んでねえはずだが、任務で生き残ったのがたった一人、
などという事態は滅多にないから、それで観音も俺の名前を知っているのかもしれない。

「いや、お前らなら似合いだと思ってよ。」
そう言うと、天蓬に勢い良くデコピンした。
「う・・・!・・・ん?」
天蓬が、目を覚ます。
「よし、こっちも目覚ましたな。
じゃあな、色男。俺は仕事があるんで。」

そう言うと、スタスタと去ってしまった。

「うーん・・・。」
天蓬が、完全に目を覚ました。
しかし、気持ちも過去も共有した今、
何を話していものか。
どう声をかけていいのか分からず黙っていると。

「捲簾。おかえりなさい。」
隣のベッドから天蓬が飛び降りて、抱きついて来た。
「・・・ただいま。つかお前こんなことするキャラだっけ?」
すると天蓬は俺に抱きついたまま、言った。
「どうせお互い全部知ってるんでしょう。
だったらもういいじゃないですか。自分のしたいようにしたって。」

ああそうかもな。多分天蓬は気持ちの話をしてるのだと思うが、まあいい。
全部それでいい。何も言わない。これでいい。その返事の変わりに抱き締め返す。

「そういやお前、俺に聞きたい事ってなんだよ。観音が言ってたぜ。
急いで聞きたい事があるって。」
「あの時何を言いかけたのかが聞きたかったんですけど・・・
貴方の心の中で直接聞けたんで、いいです。」
あの時とか言われても分からない。

「なに、あの時って。あのなあ、人と記憶共有したって
言わなきゃ分からねえことだって・・・ん!」
急にキスされて、そのままベッドに押し倒された。
「じゃあ同じこと、再現してあげますよ。これから。」
そう言ってまたキス。
のしかかって来る天蓬の重さが、心地よくて。

天蓬が、微笑んでる。気持ち良さそうに。楽しそうに。
あの時みたいに。初めて寝た、あの時。
もっと、いい顔見せろ。
もっと、いい顔させてやる。

ああ、またあの夢を見ることになっても、もう何も怖くない。
最後には、天蓬が出て来てくれる気がして。

これも捲簾視点。

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