八戒にキスした。
あれは旅に出る前だったか。
三蔵と悟空と八戒と4人で飲んだ帰り道。
なんかいつもより楽しくて、テンション高くて。良い感じに酔ってて。
今までヤローにキスするなんて絶対あり得ないと思ってたけど。
八戒は綺麗な顔してるし、もう2年も一緒に住んでて勝手知ったる仲だし、
ふざけて「八戒やらせろよ〜」って言って「悟浄、気功でブッ散りたいですか?」って八戒が
にっこり笑うなんてやりとりは、わりとやってたわけで。
そんなノリでさくっとキスしたら。
その直後、八戒の奴は笑顔でフリーズしてるし
俺も俺で酔いも覚めて、え、何この空気?みたいな。
そして、その日から、何かが変わった。

天竺へと旅に出ることになって、ほっとしてる。
悟浄とキスしてから、何かが変わった。
前に読んだ小説でこんなフレーズがあった。
『するとしないでは何もかもが180度違う事がこの世にはある。
そのキスがそれだった。』
まさにそんな感じ。
だけど、0度と180度に一体何かあるのかと
言われると考えても考えても答えが出ず。
唯一の分かりやすい僕の中の変化と言えば
『悟浄への接し方』をごっそり忘れた事だった。
旅の話が出たのはそんな時だったから、丁度良かった。

旅に出たばっかの頃はいっぱいいっぱいだったけど
しばらく旅すりゃどれも嫌って程に慣れてきて。
たまに、思い出すようになった。
あのキスを。
なあ、八戒。俺は毎日楽しくてしょうがないよ。
旅に出てから。嫌な事ももちろんあるけど。
尻が痛くなる程ジープ乗って、闘って殺して飲んで食って
野宿してうざくて笑ってる間もずっとお前いるし。
久々の宿。久々の同室。電気消した真っ暗な部屋の中で
俺に背を向けて横になってる八戒に、何か言いたくて。
だから。
なんていうか。
あれだ。
「なあ八戒、ちゅーしようよ。」

「なんで。」
あ、敬語忘れた。
そろそろ旅に慣れて来たかな、と心が変にざわついた頃に。
何言うんですか、悟浄。
「いーじゃん別に。」
悟浄はそう言うと、自分のベッドから移って来て
勝手にキス、してきた。
唇を唇で撫でられて、吸われて、妙に気分が落ち着く。
あの時もそうだった。腹の下から何かが。じわじわと。
そして、押し倒される。
「ちょっ・・・悟浄!?」
「なあ八戒、やろうよ。」
悟浄の手が、服の中にするすると入って来て
ぎこちなく、胸の尖端をカリ、と触れて来る。
僕だって貴方が欲しくて欲しくてたまりませんよ。
でもね。
「イケないでしょう。男同士なんて。」
ぴしゃりと言い放った。

「んなの、分かんねえじゃん。やってみなきゃ。」
とか言いつつ、こういう時ってどうすんだろ。
胸を弄ってた手を、下に下に伸ばしてみたら
八戒は俺を押し退けて服を脱ぎ出した。もう、全部。
裸になって、腹の傷が露になって、どうだ、と言いたげにこっちを見る。
「欲情、します?これで。」
とっさに何も言えなくて。
間。
何か言わなきゃと口を開きかけた時、
先制攻撃と言わんばかりに八戒が言った。
「このままで、いいじゃないですか。」
それに対しても、何も言えなくて。

「ここでどうにかなれたとしても、
ただ消費されて、いずれどこかに着地しなくちゃ
いけないじゃないですか。」
僕と貴方で、どこに着地できるって言うんです。
「それが、嫌なんです。
どうせなら、お互い求めてるままで、このままでいません?」
悟浄は何も言わない。暗い部屋がにじんで見えて、悟浄の顔も見えない。
「このままでいましょうよ。
お互いが唯一無二の存在。一線を越えることもできず
心の中に留まり続ける。生き続ける。」
手に入れたけど、手に入れてなくて。
お互い喉から手が出る程もどかしいのに。
でも、このままにしておく。
「ねえ、それがいいでしょう?悟浄。」
それがいいに決まってる。
そう言ったら、目がすごく熱くて、両手で抑えた。
熱い液体が流れて止まらなくて
指が額に食い込んで痛くて
でも止まらなくて。
止まらないで。でも止まってて。

八戒は俺の方に額を乗せて、肩を震わせてる。
八戒の髪を、肩を撫でる。
俺は何も言えなかったけど。できなかったけど。
でも
でもさ
俺は
ここにいるから。
いつでも、撫でるから。
ずっと待ってるから。

▲ウインドウを閉じる