初めてしたのは嵐の日だった。

その日。何年かに一度という大きな嵐がきて
珍しく悟浄は賭博にも飲みにも行かず、
家で缶ビールを飲んでいた。

僕はといえば、雨音が嫌で嫌で。
耳鳴りはしてくるし26時だというのに眠れないし、
諦めて本でも読もうかと思ったけど
読んでも読んでも話の筋は頭に入っていかないし。
という具合だったので、その素っ頓狂な提案に
表面上平静を装いながら、内心は今すぐすがりたい、という有様だった。

悟浄は僕が座っている2人がけのソファにどっかり座って来て、言ったのだ。
「なあ、八戒。セックスしない?」
チラリとダイニングテーブルを見たけど、ビールの空き缶は2缶。
悟浄が酔っぱらうような量じゃないのに。
「別に酔っちゃねえけど。お前眠れないみたいだし。
今日俺ヒマだし。」
「僕は男ですけど。」
「男同士でも、セックスできんだよ。」
そう言って、悟浄はとろりと笑ってみせた。

 

「本当は男同士の方がさ、気持ち好いのよ。
だってお互いイイ所分かるっしょ?」
それは、そうかも。と思ったけど声が出なかった。
「・・・っ」
悟浄の唇が僕自身を捉えて。
ぬるぬるとやわらかい粘膜に擦られていく心地よさ。
裏筋を、尖端をひたひたと這ってゆく舌先の絶妙な動き。
腰が、揺れてしまいそう。息が、上がってしまいそう。
快楽に、頭の中がしびれる。
ソファをぎゅっと掴んで耐えると、それを見て悟浄がふっと笑った。

今度は、僕をソファに押し倒して、シャツのボタンに手をかける。
僕は身を固くした。
「悟浄・・・あの、本当に・・・」
「セックスするって言ったじゃん。
奉仕じゃなくてセックスだから。俺も気持ち良くしてもらわないと。」
そう言って、悟浄はそこに指を入れてきた。
「っ・・・・!!」
指一本だけで、なんて圧迫感。反射的に手が悟浄の体を押し退けようとする。
なのに悟浄の口調は全く変わらず
「だいじょーぶ、じきによくなるから。」
と、僕の手を取って、見せつけるように僕の指をしゃぶった。

「八戒、目つむって。感じることだけ集中してな。」
悟浄は僕とこんな事しても、
照れも何も無く、むしろ楽しんでいるようで。
男を相手にする事も慣れてるんだ、きっと。
じゃなきゃ、こんな。
こんな気持ちいいこと、できない。
悟浄の手が、舌が、唇が、いやらしく僕の肌を這う。
触感は自動的にすべて快楽へと変換される。
これじゃ触れていったところすべてが
性感帯にされてしまう。

 

「慣れて、るんですね。・・・こういう事・・・っ!」
息も絶え絶え言えば、そんな僕を笑いながら悟浄が言う。
「まあな。ずっと一人で生きて来たからなあ。
まあ一通りなんでも。
ていうか、声出せば?こーいう時は楽しまなきゃ損だぜ?」
「そんな事・・・。」
「体はもう充分慣れてるだろ?
八戒のここ、俺のも余裕で銜えてるもんなあ。」
「・・・んっ・・・」

そう。
さっきまでの圧迫感や痛みが嘘のよう。
今では悟浄自身を受け入れてしまっていて。
しかも、自分の中で悟浄のそれがゆるゆると動くたび、
かすかな浮遊感が。

「・・・あ・・・」
「あ、ここ?イイの?」
僕の変化を目ざとく見つけた悟浄は、
激しく腰を動かし、そこを攻めて来た。
「んっ・・・あ・・・ぁ!」
「すげ・・・八戒、素質あるな。」

何度も何度もそこを突かれる度に
頭が真っ白になるような快楽が、どっと押し寄せる。
前を弄られるのとはまた別の。
理性も取り払われて、暴力的な程に振って来る快楽をただただ貪る。
感じるがままに声を上げ、体をしならせ
指が食い込む程に悟浄を抱き締めて。
自分が止められない。
なんて恐怖。なんて快感。
「八戒の中、すげえいい・・・
ワリ、俺先にイカせてもらうわ・・・」
「っあぁ・・・」
悟浄自身が僕の中でひくりと震えるのが、分かった。

 

そんなこんなで、あれから何度悟浄と交わっただろう。
悟浄に体を開発されていく恐怖と快感。
悟浄の吐息がかかるだけで反射的に体が疼くようになって。
何度目かで、後ろでイけるようになって。
体位を変えて。場所を変えて。
縛ってみたり目隠ししてみたり玩具を使ったり。
なんでもやった。

別に2人の間に何かが合ったわけじゃない。
ただただセックスしただけだ。
どこに着地するわけでもなく
行為そのものがエスカレートしただけ。
とっかかりからして、退屈しのぎとその場しのぎ以上の
意味があったわけでもないから。
伸び代もタカが知れてるのだ。

そう。分かってたはずだ。
やりつくしてしまえば、お互い飽きて終わる。
あとは完全な無だけ。
それが今。

悟浄は飲みに出かけた。
日が落ちた真っ暗な部屋で、
ダイニングテーブルに突っ伏してだらだらしていた。
最近食事も作っていない。掃除も洗濯もしていない。
自分が飲んだ酒瓶も片付けてない。
テーブルに転がってる。

虚無。

2人の間に、やりたいことなどない。すべきことなどない。
なにもない。
このまま生きてても、することも特に無いんですよねえ。

そう思ったら
一筋、涙がこぼれた。

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